あらすじ
長嶋も江夏も、イチローも大谷も登場しない、オーナー企業の視点から描く日本プロ野球「経営」全史!
1936年から歩みを始める日本プロ野球の歴史は85年。その間、球団オーナーとなった会社(個人も含む)は55社にものぼります。草創期の鉄道、新聞から、戦後の映画、食品、流通小売、そして21世紀に入ってからのITベンチャーまでの流れは、日本経済の構造変化と産業交代の姿そのものです。
草創期から変わらぬ球団がある一方で、1年に満たずに撤退したオーナー企業もあり、日本の会社の栄枯盛衰を描いた経営・ビジネス書として読みごたえがあります。
もちろん、本書はプロ野球本ですから、各球団オーナーの動向を時間軸に沿って追いながら、チームの年度別の観客動員数や順位、さらには世間を揺るがせた事件(「空白の一日」など)にも触れます。
「膨大な資料の中から埋もれていた史実を掘り起こし、歴史に新しい光を当てる」という執筆スタイルで評価の高い著者。本書では「経営」という切り口でプロ野球史を丸ごと取り上げた超意欲作です。
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Posted by ブクログ
オーナービジネスと産業興亡史
プロ野球の歴史、オーナーがどう変わってどの様に関わったか。
スポーツビジネスに関わるものにとって必読書、温故知新。
■概要
400ページを超える長編で、戦前どころか明治時代から野球、職業野球→プロ野球に関する歴史を整理。
プロ野球の球団増減、オーナーチェンジの歴史が全網羅されているだけでなく、オーナー企業の「経営者」や周囲の人間にもスポットがあたっており、なぜ球団を持ちたいのか、球団を持ってどうしたかったのか、が滲み出てくる
■感想
・球団の歴史日本の産業変遷や生活の変遷そのもの
とはよく言ったもので、新聞や鉄道、映画、鯨肉→加工肉、IT企業の隆興などの解像度がよくわかる。
・スタジアムとの一体経営★
1950年から今でいうボールパーク構想はあったし、スタジアムと球団の一体経営は模索されてきた。ただその重要性より、建設コスト(というより資金調達)の合理性が優先されてきたこともあり、一体経営が出来なかった球団は収益化に行き詰まった。ソフトバンクやDeNAは最終的にスタジアムの所有権(または運営権)を取得するという投資判断に踏み切ったし、23年に開業したエスコンフィールド北海道(札幌ドームから日本ハムが移転)のやり取りは『アンビシャス』(鈴木忠平 著)に詳しく記載されている。
当時はソフトとハードの一体経営の重要性を知らなかった、というだけでなく「知っていたが安きに流れた」という方が近いかもしれない。それで言うと、今のBリーグは同じ轍を踏みかねないのではないか?と危惧している。
プロ野球は巨人(東京ドーム)とヤクルト(明治神宮野球場)を除き、全球団が球場の運営権を持っている。※阪神や中日など親会社の球場所有を含む
・マーケティングという幹と、戦略という根
プロ野球が不滅の人気スポーツであり、再成長しているのはパリーグの全体最適や広島・DeNAの地域密着による「底上げ」が大きい。年間試合数が違うとはいえ、入場者数2,000万人超えで1試合平均でも2〜3万はバケモノコンテンツ。その裏には、単なるマーケティングの成功だけでなく、「球場を押さえる」という"戦略"が効いているのかもしれない
・正力イズムと親会社広告宣伝モデル
球団ではマネタイズ(というより黒字化)せず、球団は親会社の広告宣伝費として位置付け、グループで儲けるのであれば、後楽園や東京ドームの様な貸館でも良かったのかもしれない。ただ、それで限界が来たのが阪急や近鉄。そのモデルから脱却したいのであれば、球場と球団の一体経営は不可避。
Posted by ブクログ
骨太なノンフィクション。
プロ野球の成り立ちからIT長者による買収までの
歴史がまとめられております。
鉄道会社がプロ野球に限らず百貨店などを運営するのは
あくまで鉄道を利用してもらうためのコンテンツとして
位置づけられていたとは驚きです。
冒頭のプロ野球オーナー会社一覧図が
非常にわかりづらいのですが、
そうせざるを得ないくらい、複雑な歴史でした。
これを執筆するにあたり、どれくらいの文献を
読み込んだのか、
とてつもない量だと思います。
Posted by ブクログ
小さいころから慣れ親しみ、プロスポーツといえばプロ野球として、純粋に選手、チーム、試合を見ていた子供の時から、球団とは会社であり、それもまた、スポーツとは関係のない企業が経営していることをいつの頃からか漠然と知った時に、とても不思議な感覚にとらわれたことを思い出した。さらに、好きな球団、スター選手、同郷の選手の活躍を喜々として楽しんでいた裏で、本書に記された政治、経済界、裏社会が暗躍するドス黒い駆け引きが繰り広げられていたとは、背筋が寒い。
Posted by ブクログ
経営者の視点からのプロ野球球団史。鉄道、映画会社から流通、ITへ。時代を反映した閉鎖的な社会を概観した力作。
何より分量の多い作品。プロ野球の誕生から今日まで、球団の歴史つまりは親会社の歴史。ある意味球団のオーナーは時の名士であるので、そのまま日本政治の裏面史となっているところが何より興味深い。閉鎖的な社会と巨人中心の野球界。
親会社が何度も変わる中、実は創設から全く変わらないのは阪神だけという意外な事実も面白い。
選手や監督がほとんど出てこない、また巨人中心でなく12球団満遍なく記載されているところも評価したい。
Posted by ブクログ
なかなかに、面白い本だった。川上、長嶋、江夏、田淵、王、江川…そういう選手たちは名前くらいのもので、この本の主役は球団の経営者なので、それぞれの経歴が割と紙面を割いて書かれており、それはそれで興味深いところもあるのだけれど、寧ろ、西武が球団を持つのはライオンズだけではなかったんだとか、ユニオンズとかセネタースとか、過去の歴史を振り返ると時に出てくるそういう球団の事情とか、色々知ることができて、面白かった。
この本は、だから、プロ野球球団の経営者の個人史であるのと同時に、経済史でもありといった風な読みものとして、日本の戦前から今に至るまでの一面の歴史書なんだな。
にしても、この著者は阪神ファンだからかもしれないが、正力松太郎、言わずと知れたプロ野球の父のようにいわれてその名前を冠した賞もある人が、意外に、巨人からも読売からも、疎まれていたんだなというのは、興味深い話だった。
誰を主人公にするかも大変だし、視聴率も取れないとは思うけど、これ、大河ドラマでやったら面白そうだななんて考えた…
Posted by ブクログ
日本のプロ野球の歴史を経営の観点で辿っていく。
昔から順を追って少しずつ今の形に出来上がっていく過程、知らないことが多すぎて面白かった。
「経営」なだけあって金勘定のドライな裏事情のみなのかなと思いきや、黎明期はとくに、「野球が好き」と言う思いから発達につながったというあたり、人間臭くていいなと思った。経営層とか政治家とか、そのあたりの人たちって普段直接は関わりないけど、「あいつが気に食わない」とか「気に入られる」「根回し」「紹介」とか、生な人間関係とかコミュニケーションが超重要なんだろうな。
Posted by ブクログ
中川右介さんはクラシック音楽関連の本が多数あり、半年前に「至高の十大指揮者」を読んだ。
阪神の大ファンであるらしく、日本プロ野球を牽引してきたのは巨人ではなく阪神だと主張するために書いた本らしい。
1936年にプロ野球が発足した時は7チーム。
親会社が同じなのは阪神タイガース(大阪タイガース)だけ。
球場が変わっていないのも、阪神甲子園球場だけ。
これが牽引してきたという拠り所みたいだが、素直に凄いと思う。
プロ野球の変遷という視点で、戦前から戦後・現在に至るまでの日本の産業の発展と衰退の歴史の一端をたどることもできる本だ。
テレビの普及が映画を衰退させる要因となったが、同時にパリーグも衰退させ1970年代にはパリーグ消滅の検討までされていた。
本書には戦争で亡くなった選手、チームを率いる監督が何名か名前が出てくるが、監督以外で登場するプロ野球選手は、江川卓。
1973年阪急、1977年クラウンライターとパリーグのチームが江川の交渉権を得るが、江川は入団を拒否する。
そんなタイミングでクラウンライターは総理大臣まで巻き込んで、ライオンズを西武に売ることになる。
時を同じくして巨人は"空白の1日"を悪用し、江川との入団契約を画策する。
この計画はセリーグ会長も知っていて、西武への球団譲渡の条件に江川の交渉権を認めないことを伝えていた。
江川の背後には、作新学院の理事長でもあり自民党副総裁の船田中がいたので、西武は総理の福田赳夫も利用して江川への説得を頼む。
空白の1日事件の舞台裏にコミッショナー、政治家、球団経営者、出資者などのドロドロの根回しや目論見があった。
この事件で、江川卓の悪役イメージが作られてしまったが、特に政治家が絡んでくると裏金の流れも含み醜態をさらす分かり易い例だ。
現在の12球団、セパ2リーグ制になったのは1958年。
1958年の順位で示すと、
セ:巨人、大阪、中日、国鉄、広島、大洋
パ:西鉄、南海、阪急、大毎、東映、近鉄
1979年からの10年は、チームの変更なく過ぎる。
セ:広島、大洋、中日、阪神、巨人、ヤクルト
パ:近鉄、阪急、日本ハム、ロッテ、南海、西武
そして現在、2022年は、
セ:ヤクルト、阪神、巨人、広島、中日、DeNA
パ:オリックス、ロッテ、楽天、ソフトバンク、日本ハム、西武
パリーグはすっかり変わっているが、今応援しているチームがある人は、チームの歴史を知りたければ本書は最適だろう。
球団経営には野球が好きな人だけでなく、プロ野球を利用した金儲けしか眼中にない人も集まって来る。
小佐野賢治や渡辺恒雄などがいい例だが、本書には堀江貴文や村上世彰なども登場してくる。
阪神も村上ファンドに大量に株を買い占められ、経営に口出しされてピンチの時があった。
阪神タイガースが村上タイガースになっていたら、中川右介さんはこの本を書いていないのでしょうね。
私は特に阪神のファンではありませんが、阪神タイガースは"永久に不滅"であって欲しいです。
Posted by ブクログ
85年に及ぶオーナー企業の興亡や経営者の活躍と暗闘を描いたプロ野球史といっていい本だと思います。
阪急と阪神の因縁が100年以上続きやがて一体化したというのは何の因果か。
徹底して産業史として描かれるため、ほとんど選手は出てこないのですが、読み終わるともう少し現状のプロ野球のオーナーも日本の経営者も新陳代謝が必要な企業が数社あるように思えました。
Posted by ブクログ
断片的には知っている話が織り込まれているが、これだけのボリュームで迫ってくると。
しみじみと思うのは、プロ野球というのは、やはり企業がやっているものてせはなかったということ。良くも悪くも(どちらかというと後者か)ビジネスではなかった。
こんなに良いかげんなところがあるのなら、正直18チームで固定されれば良かったのに。