あらすじ
音村夏貴は時々過呼吸の発作に見舞われる中学生。親友正哉の家が火事になり、彼が焼死した。両親を助けようと夏貴の目の前で燃えさかる火のなかに飛び込んでいったのだ。不審火だった。嘆き悲しむ夏貴の耳に親友の声が聞こえてきた。彼の遺した携帯から。そして画面には死んだはずの彼の顔が……。携帯から語りかける友人との二人三脚で、夏貴が探り出した驚愕の真相は……? 畠中恵、初の現代小説。ファンタスティック・ミステリ!
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Posted by ブクログ
畠中恵作品12冊目
クローン問題という多くの人が言及を避ける重たい主題を扱った小説。しょっぱなから母親は過干渉だわ、火事に飛びこむ親友を助けられずに焼死と相成るわ、自殺にはちあうわ、自分の家も放火にあうわ、携帯電話に意識だけ残した親友が消えるわ、突然母親は再婚すると言い出すわ、かなりシリアス。そしてシリアス度を決定的にするのは主人公が父親のクローンだという新事実!
だけどそれを補って有り余る面白さがある。
主人公は過呼吸に陥りやすく、ちょっとパニックになるとすぐに気絶しかけるような子で、いろんなことを思い悩んですぐに思考の渦に嵌っていくし、死んだ親友の携帯に向かって語り続けたりする精神的もろさがあるけど、それが重たくなりすぎないストーリー展開がいい。
とにかくテンポよくストーリーが進み、謎が気になって気になって最後まで進む。ミステリー、というよりは多分家族とのかかわりとか人の考えとか倫理とかそんなものに主眼が置かれている。
そして準主人公ともいえる義理の父親となる「おっさん」の言うことがいちいち格好いい。もしかしたら理想論かもしれない、でも正論を言い切れる潔さがいい。こんな人が身近に居たら、耳に痛いことを言われる子も知れないけれど、それでも頼りになれていい人生を遅れそうな気がする。
「お前は一人の人間だ。それだけだ。一生懸命生きていればいいんだ。そうだろうが!」───まさに、そう。単純明快。だからいい。
いろんな人物が出てくる、スターのような扱いをされる腕のいい医者も、子どもを愛する母親も、未来を憂える大人も、たくさん出てくるのに、一番正論を吐くのが、真っ当とは言いがたいホストの職についている人物だなんて、皮肉で面白いなぁと思った。また彼自身が自分で「自分と折り合いをつけるために、人生の半分くらいの時間をかけちまった凡人だ。」と言うのがいい。正しいことを言うのが偉い人じゃなくて、普通の人だってことはありうることだ。
殆ど出てこなかった人物が犯人だったり、結構な重要人物なのに前半だけで登場が終わったりするのが難点といえば難点かも。
でも読みおわったあと、満足して「ああ面白かった!」といえる。
しゃばけシリーズとは一味も、ふた味も違う。ほのぼのとはいえない、どこか手に汗握り身につまされるところもある。だけど多分、そういう張り詰めた感が、思い悩みもがき苦しんで助けをかりながらも自分の手で光明を握り締める人間がすきだ。しゃばけシリーズも面白いけど、体が弱いという厳然たる物理的な理由ゆえにそこから抜け出そうと必死にもがこうとはしない若だんなとは、ちょいっと毛色が違うかな。
私の中では今まで読んだ畠中恵作品ベスト1。