あらすじ
1902(明治35)年1月、雪中訓練のため、青森の屯営を出発した歩兵第5連隊は、
八甲田山中で遭難、将兵199名を失うという、歴史上未曾有の山岳遭難事故を引き起こした。
当時の日本陸軍は、大臣報告、顛末書などで、猛烈な寒波と猛吹雪による不慮の事故として葬り去ろうとした。
しかし、その事故から62年後、最後の生き証人だった小原元伍長が長いインタビューを受けて証言、
地元記者が「吹雪の惨劇」として発表し、真実の一端が明らかにされた。
その情報を元にして新田次郎は『八甲田山死の彷徨』を執筆、書籍は大ベストセラーに、映画『八甲田山』も大ヒットした。
著者は、小原元伍長の録音を入手し、新田小説とのあまりの乖離に驚き、調査を始める。
神成大尉の準備不足と指導力の欠如、山口少佐の独断専行と拳銃自殺の謎、福島大尉のたかりの構造、
そして遭難事故を矮小化しようとした津川中佐の報告など疑問点はふくらむばかりで、さらに生存者の証言、
当時の新聞、関連書籍や資料をもとに、現場にも足を運び事実の解明に努めようと試みる。
新発見の事実をひとつひとつ積み上げながら、「八甲田山雪中行軍」とは何だったのか、その真相に迫る。
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Posted by ブクログ
映画「八甲田山」は観たことはなかったが内容はなんとなく知っていた。やはり映画と同じように成功したほうの隊のトップはちゃんとした人なんだろうなと軽い気持ちで読んだら全く違っていたので驚いた。どちらの隊でもこんな上司の下で働くのは嫌だ。ましては生死が関わる場所でのところとなると・・・。部下を人と思わず、道案内人の恩を仇で返すような態度をとる上司って本当にどこの時代でもいるんだな。こういう人たちがいなくなればもっと日本が、世界が変わっていくんだろうな。
本当に備えあれば患いなしです。
防げたであろう事故だったのにと思うと亡くなった人たちが可哀そうです。
Posted by ブクログ
こういうテーマの映画があった、ということで『八甲田山で雪中行軍して遭難し大量の死者を出した』と知ってはいても、映画は見てないし、ましてや原作という小説を読んでもないので具体的なことはさっぱり知らなかった。だから真相と真実に迫ると言われても、はあそうなんだ~、やっぱりの隠蔽体質~、真面目な軍人ももちろんいたんだろうけど、陸軍って組織は明治のころからなんかこうお粗末なのね、というのが一番の感想。
Posted by ブクログ
この本を読んでかえって『ストーリーの強さ』を実感した。
これだけの資料・証言をもって史実の八甲田事件を語られてもなお、映画や小説の八甲田を信じたくなる。「ウチらの健さんを悪く言うな!」とさえ。人はつくづく信じたいものしか信じない。真実は異なることをわきまえた上で「こうだったらいいな」のストーリーを持つのが読者の務めだ。
本書は現実を知るという意味では非常に役立ったが、そのためだけに読むには堅く長くちょっと労力がいる。
ご本人が自衛隊出身とのことで、軍に対する厳しい批評的な目線を感じる。
特に第五連隊がパニック離散したところは、一般人の私からすると自分の命第一優先な状況で当然、むしろそれまで数日耐えただけで偉い、と思うが筆者はそれを言語道断と斬り捨てる。
特に津川中佐へはねちねちと怒り心頭の様子。
軍人はいつの世も、危ういほどの独自の精神世界で、人を守るべく戦っているので頭が下がる思い。
映画では年嵩で落ち着き、頼もしく見えた倉石大尉(倉田大尉)が金成大尉より年下なのに驚き。また印象がガラリと変わる。