【感想・ネタバレ】日本の私立大学はなぜ生き残るのか 人口減少社会と同族経営:1992-2030のレビュー

あらすじ

2010年代半ば、日本では、大学の「2018年問題」がさまざまに議論されていた。18歳人口の減少によって、日本の弱小私立大学は次々と経営破綻すると予想されたのだ。しかし、日本の私立大学の数は逆に増えている。なぜなのか。

著者たちは人類学者ならではのフィールドワークとデータの分析によってその謎に迫っていく。導き出されたのは、日本独自の「同族経営」の実態であり、それは私立大学のみならず、日本社会の本質をも炙り出している。他に例をみない私立大学論であり、卓抜な日本社会論ともなっている。

オクスフォード大学教授・苅谷剛彦氏による解説を付す。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「2018年問題」と言われた18歳人口の減少の中、廃校となった私立大学は予想に反して少ない。この謎を解明するのが、本書である。
私立大学が生き残りを掛けて採った方策には以下のものが挙げられる。
・規模縮小
・提供するコースの調整(改組・名称変更)
・高校卒業生市場の掘り下げ
・中等教育機関を運営する学校法人と大学を有する学校法人との間の「垂直」の戦略的統合

注目すべき点は、70-80年代の入学生減少期に米英の大学が採った以下の方策とは異なることだ。
・社会人学生や遠隔学習者(パートタイム学生)の確保
・海外からの留学生の確保
・研究費補増やすための産業界とのパートナーシップ

日本では、90年代に中身が伴わない「ショーウインドウ化」した大学院の量的・質的充実が課題となり、アメリカの大学を参考にしつつ以下の制度も採られたが、「失敗」と評されことが一般的だ。
・2000年代初頭の大学院の拡充
・株式会社立の大学(2003-)
・専門職大学院制度(2003-)
・法科大学院制度(2004-)(74校➔39校に減少)。

結局、私立大学の歳入の内訳(財政構造)は、18歳人口ピーク時の90年代の頃から変っていない。生涯教育・リカレント教育のかけ声にも拘わらず何の変化も生じなかった。
それでも(歴史の浅い小規模大学が多い)「私立大学協会」に属する新興の「同族経営大学」の多くが存続している。それはなぜか。これら大学は、革新的な教育や経営的なアイディアを取入れ、試し、発展させ、カリスマ的な教育リーダーが熱心に改革を進めることができるからだ。同時に、コングロマリットの中で主要な”フラッグシップ”となる大学を閉鎖すると、学校法人全体の評判に傷をつける。系列の学校全てだけでなく、経営一族までが被害を受ける。だから大学を存続させることは必須で、これがレジリエンスに繋がったということだ。

しかし、コーポレートガバナンスを強調することは「アカデミック」ガバナンスの仕組みの希薄化に繋がる。これまでどおり私立大学は「公益性を備えた存在」となり得るのか。理念と現実との相克の中で、「同族経営大学」は、営利企業のように継続していくのでであろうか。
この問い対して各大学は、「政府によるコントロール」と「マーケットの力学に任せる」という矛盾した政策の中の「匙加減」で、私立大学は翻弄されていくのだろう。

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2023年06月18日

Posted by ブクログ

人口減少の影響で多くの私立大学が潰れるだろうとの2018年問題。この予想は外れ、多くの私立大学は粘り強く生存し続けている。これは何故か? この謎に挑む一冊となっている。素晴らしい研究成果で、社会人類学的な分析手法に拠っている。メイケイ学院大学(仮称)で繰り広げられる生き残り策がホントに「あるある」で、不祥事も含めてそれらが丁寧に分析されている。
で、実は私大の問題は日本社会の特質でもあるわけだ。だから日本の研究者には、ここでの結論に辿り着けなかったんだろうね。

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2022年02月13日

Posted by ブクログ

めちゃくちゃ面白かった。久しぶりに時間を忘れて一気読みして、次の予定に遅れそう。少子化によって減少すると考えられた日本の私立大学の多くが生き残っている要因として、同族経営の重要性が見過ごされてきた点を指摘、最終的には優れた日本社会論になっている。
・最近の学生は真面目という言説を目にするが(少なくとも本書が扱う某私大では)定員維持のため大学が真面目に教え始めた方が先
・前近代的な世襲システムがいまだに持続する要因を検討すべき
・私大の三類型(思想背景を持つ結社型、宗教系が多いスポンサー型、起業家型)は実感に沿う

最後駆け足で読んでしまったこともあると思うが、n=1の話を最終的には日本のイエの話まで昇華させるstorytellingの力はすごい。ただ、結局のところ本当に同族経営がパフォーマンスに結びついているかが分からない点は、消化不良というか、今後の課題だなと感じる。

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2022年01月05日

Posted by ブクログ

外国からみた私立大学の経営に関する本。元々は英語書籍で、family-tuned private universitiesというタイトル。

同族経営、というくくりは、日本人にとっては聖域じみていて触れられてこなかった領域に切り込んでいる。

本著で同族経営によるレジリエンス(サバイバビリティ)に切り込むのは、後半から。前半はMGUという仮名の大学を例示して、日本の私立大学の典型例をリアルに書く。その中であの手この手で大学を存続させる施策やトレンドに触れる。

自分自身はこういう場面に直接入っていく機会はなかったが、営利企業らしいしたたかさと、同族経営っぽい存続への想いなど、こう顕在化するのかと興味を持って読めた。



MGUは茗溪、大阪学院大学のことかな。

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2023年06月02日

Posted by ブクログ

日本の、いわゆる三流大学が、1990年以降の急激な若年人口減少にさらされたのに、予想に反して大半が生き延びてきた背景には、創業者一族が一つの大学だけでなく複数の学校を所有して、グループ全体で相互に助け合う事によって収益を最大化することができるという同族企業の強かさがある。

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2022年05月09日

Posted by ブクログ

事実誤認あり。

P.158 学習指導要領の指定内の語彙数で英語の入試が作られていると正しく指摘しているが、本文で挙げられている例はこれにそぐわない。

また脚注26に、「『ジーニアス英和辞典』に収録されている英単語は五段階の難易度に分かれているが、入学試験ではその中で最も優しい三段階に含まれる一万三二〇〇語だけを使うことになっていた。」とある。

しかし、学習指導要領が指定する学習すべき語彙数は最大で約5000語であり、この著者たちの調査期間では、これよりも少ない語彙数だったはずで、上記の記述は事実誤認。『ジーニアス英和辞典』の一・二段階の語彙を使って入試問題は作られている。現に、『ジーニアス英和辞典』がこの学習指導要領を意識して語彙レベルを設定した最初期の学習用英和辞典。

ちなみに、著者たちがいう一万三二〇〇語の語彙レベルは、英検一級レベルのそれであろう。

同じく脚注26で、上記引用に引き続き、「そのうち一一〇〇語が最も易しいレベル、四八〇〇語がが次のレベル、七三〇〇語がその次のレベルに含まれていた。」とあるが、これも事実誤認。

『ジーニアス英和辞典』では上述のとおり、語彙レベルの一・二段階(当該辞書ではA・Bランクと定義)は学習指導要領に則った語彙数にしている。『ジーニアス英和辞典』は初版以来、この語彙数はほぼ一定でAランクが約1100語、Bランクが約3500語程度である。ちなみに、初版ではA・Bランクに続くBダッシュランクが約1300語「高校準基本語(大学入試必須)」である。そして、初版以降の版ではAランクの語彙数を除けば、収録総語彙数に反比例して、ランクが付いたレベルごとの語彙数やレベル表示が減っていく傾向にあり、増えている事実はない。これは現行の学習指導要領まで、学ぶべき語彙数が減り続けたのが一因であろう。

著者たちは『ジーニアス英和辞典』を参照していない。

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2022年03月27日

Posted by ブクログ

少子化で入試レベルが低い私立大学は軒並み潰れると思われていたが、案外現在も存続している。その理由を分析し、大学以外に様々な学校を併せ持つ同族経営が大学存続の一つの鍵だったと分析されている。なるほど、意外に面白い。
本書は、外国人によって英語で発表されたものを日本語に翻訳されたもののようで、その意味では、日本人による日本国内向けの内容とは視点も異なっている。そもそも大学を運営する学校法人がどのような構成になっているかということは、あまり公になっていないし、学校のウェブサイトにも詳しく載っていない。学術的な分析、国際比較の部分に比べて、メイケイ学院大学(仮称)の個別具体的なエピソードが面白い。

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2022年03月19日

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