【感想・ネタバレ】神保町「ガロ編集室」界隈のレビュー

あらすじ

1960年代末、マンガ、映画、演劇、アート、さまざまな表現分野で変革の波が起きていた。その中心にあった、白土三平「カムイ伝」連載の『月刊漫画ガロ』編集部に本書著者は転職する。そして、長井勝一編集長のもと、つげ義春「ねじ式」、滝田ゆう「寺島町奇譚」誕生の瞬間、林静一、佐々木マキらのデビューの場に立ち会う。その後、北冬書房を設立し今も活動は続く。巻末対談、つげ正助

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Posted by ブクログ

▼雑誌「ガロ」の裏話です。ガロを作ったのはたれかというと、白土三平さんだそうで。その頃に既に「忍者武芸帳」が大ヒットしており、巨匠の域に入りつつあった作家。「カムイ伝」を連載する場を作るために「ガロ」を作ったそうです。まああれは、部落差別ど真ん中の衝撃的な超エンタメ時代劇ですから。出版側から文句を言われたくなかったんでしょうね。

▼作ったのは白土三平さんだけど、運営発行して続けたのは「青林堂」という出版社で、長井勝一さんが社長/初代編集長。
 1964年の創刊。カムイ伝連載開始。1971年、カムイ伝(第一部)連載終了。その後も雑誌「ガロ」は続くんですが、だいたいこのあたりまでが、 ”伝説の雑誌「ガロ」” の時代かと思います。
 「カムイ伝」「鬼太郎」が連載されており、つげ義春さんが「紅い花」「ねじ式」などの、マンガ史に燦然と輝くオンリーワンな金字塔を打ち立てたのも、この時代の「ガロ」。ほかに永島慎二さんや滝田ゆうさんなどが書いていた。
(もちろん当時から、「アングラ」と呼ばれる次元の部数の漫画雑誌だったわけですが。ただ、時代を超えて記憶に止められる文化装置だった。「紅い花」掲載号などは、どれだけ高値をつけても古本市場に出てこないそうです)
 
 …というようなことは、なんとなく基礎知識としてはもっていたんです。「カムイ伝」は何度も読んだ口ですし、つげ義春さんも1980-90年代の<過去名作ハードカバー復刊ブーム>の頃にむさぼるように読みましたので。

▼この本を書いたのは高野慎三さんという方で、まったく存じ上げませんでしたが、要は前記の ”伝説の時期”に青林堂の社員としてガロの編集に大きな足跡を残した方だったんですね。そして、その後、退社独立されて北冬書房という出版社を作られて、「夜行」という大まか「ガロ」的な雑誌を出されていたそうです。

▼その高野さんが、2020年代になってから、往時を振り返って書かれたもの。まずは語り口はさすが編集者さんだなあという旨さです。感情的になりすぎず、独善的になりすぎず、正義をふりかざすこともなく、でもオモシロそうなエピソードはちゃんと立てながら。感傷は香りますが、過度ではありません。
 つまりは、2025年現在から振り返れば。1964-1970の雑誌「ガロ」界隈などは、とにかくみんな若い訳です。20代とかの新人も大勢います。そんな人たちが書いて編集しているわけですから、大いに乱暴で、やたらと大雑把で、すこぶる自由で、ある意味まじめで、かなり頭でっかちで、無自覚にロマンチストで、実は世間知らずで、全共闘みたいな学生政治運動、闘争みたいものに、大きな夢や希望や、せめて共感性くらいはもっていたりするわけです。
 そういう時代の空気感みたいなものを、すごく感じられるオモシロイ読み物でした。

▼この本が素敵なのは、
「この時代だって、こういう雑誌を読んで共感していた人は、人口の%で言えば全然メジャーでは無かった。むしろ少数派だった」
という客観的な冷めた視点も持ち合わせていることです。自己肯定と「ドーダ感」がかなり抑制されてます。これ、結構すごいことです。

この手の本は、以下が匂い立つものが多い。と思うんです。


・あの頃のわれわれは、(俺は、私は)愚かだが何かキラキラしていて。少数派で、異端で、俺たち変わっててさ。

・今どきの若者とは違って充実していて、理想を信じていて、勉強していて、教養があったり社会関心が高かったりしてて。

・戻ってこないけどあれは美しい日々だったのでる。醜悪なことも含めて。

・それに比べて今の若者は、今の社会はどうなんだよ。




大抵申し訳ないけれどそういうのは読み物として興ざめです。その構造を、分かっている人が作っている本、という気がします。

 とにかく、あの頃はどんな感じだったか、ということを書きましょう、という。


▼まだまだ関係者の多くがご存命でしょうし。物故されていても遺族が明確にいらっしゃるでしょうから、当然、書けないこともいっぱいあると思います。
 そういうことを差っ引いても、1964-1970という時代の気分…それは

「政治運動をする大学生(が割と存在した)という時代」

だし、

「ビートルズの時代」

だし、

「世界中で第2次大戦直後に生まれた団塊世代が成人する時代」

です。
 ご自分の自分史でもありながら、それが「有名な漫画家さんたちの楽屋噺」でもあり。「その時代の東京のマンガ出版文化の空気感」の物語でもあり。
 そしてきっと、「1960年代という世相」を、2020年代から照射するということが実は主題なんだなあとも感じられました。

 60年代マンガ雑誌界隈青春グラフィティでもありながら、そんな味わいもした素敵な一冊でした。

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2025年10月04日

Posted by ブクログ

伝説の漫画雑誌「ガロ」、そして、ガロを巡る人々と、神保町界隈の50年、60年を語るもので、実に面白かった。
わたしは、東京事務所が神保町にあるので、もう、ここで取り上げられる場所がどれも具体的に浮かび上がってきて。
そして、なぜか、昔から、わたしは、この1960年代にノスタルジーを感じるのです、生まれ年は1969年だというのに。白土三平、水木しげる、つげ義春をはじめ、ガロの漫画家たちや、その周辺の思想家、批評家に惹かれるのです。大学生のときに、かつてとはずいぶん変わっていたであろうガロを買って読んでましたが、合わせて、つげ義春、水木しげるの貸本時代の漫画を買い集めては、貪るように読んだ。
今、漫画はほぼ読まなくなりましたが、若いときのことを思い出させてくれました。

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2021年04月04日

Posted by ブクログ

ガロ全盛期の編集者により、当時の作家陣や関係者の熱気あふれる状況が描かれています。巻末のつげ義春氏のご子息との対談は、人となりがリアルに伝わってきて興味深いものがありました。ちくま文庫にはガロ関係が比較的多いような気がしますが、復刊もして欲しいところです。

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2021年11月18日

Posted by ブクログ

つげ義春を伝説にした、ある意味功労者の証言、ある意味全共闘臭い爺の回想録。
つげの私的世界に、運動の臭いをつけたという意味で、功罪。
いろいろな意味で興味深いという感じ。
青林堂で「ガロ」、北冬書房で「夜行」、「幻燈」。
(別名は権藤晋)

内容
1960年代末、マンガ、映画、演劇、アート、さまざまな表現分野で変革の波が起きていた。その中心にあった、白土三平「カムイ伝」連載の『月刊漫画ガロ』編集部に本書著者は転職する。そして、長井勝一編集長のもと、つげ義春「ねじ式」、滝田ゆう「寺島町奇譚」誕生の瞬間、林静一、佐々木マキらのデビューの場に立ち会う。その後、北冬書房を設立し今も活動は続く。巻末対談、つげ正助。

目次
第1章 『ガロ』創刊のころ
・神保町界隈
・『ガロ』創刊のころ
第2章 『ガロ』の人たち
・『ガロ』編集室
・池上遼一とつげ義春
・佐々木マキの反逆
・滝田ゆうと国立の喫茶店にて
・林静一の叙情性
・異能の人たち
・「つげ義春以後」の表現者たち
第3章 美術、映画、本…
・現代美術の人たちと
・映画と演劇と本と
第4章 回想と追憶の人々
・水木しげるサンを偲ぶ
・辰巳ヨシヒロ追憶
・鈴木清順監督の思い出
・渡辺一衛さんを悼む
・うらたじゅんさんを偲ぶ
・梶井純を偲ぶ
終章 長井勝一さんとつげ義春さん
・長井さんとの五年余り
・『夜行』創刊のいきさつ
・つげ義春作品の内と外
・つげ義春の「創作術」について
巻末対談 つげ正助と語る「つげ義春」

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2021年04月11日

Posted by ブクログ

60年代末、青林堂に入社し「ガロ」初期の編集に携わり、その後、北冬書房を立ち上げ「夜行」「幻燈」などを発行した著者の回想エッセイ。
基本、老人のノスタルジーだし、個人的に嫌悪しているあの全共闘世代特有の鼻につく雰囲気が充満しているが、つげ義春、林静一、滝田ゆうなどのエピソードは興味深いし、当時の雰囲気を知るには良い一冊。
手塚能理子との対談があれば読んでみたい。

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2021年03月03日

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