①なにがクラウド導入に向くのか
銀行・選挙・医療・教育・娯楽
この五つを挙げたときにクラウドに向くのは医療・教育・娯楽であり、逆に銀行・選挙などはクラウドに向かない。考えるときに参考となる点は
①信頼性の担保にコストがかかる
②常に同じ分量・大量に使うことが分かっているならば必要ない
③本当に費用対効果が上昇するかを考える
ということである。①の理由で銀行はシステムがダウンしては信用問題となるのでクラウドには最もむかない。逆に娯楽では「一瞬たりともダウンしては困る」という人は少ないと想像できるので最も向いている。そのほかの三つに関してはメリットとデメリットの程度の問題で判断される。
選挙はどうだろうか。選挙を電子化すれば投票の時だけ必要な処理能力を使えばいいので一瞬向いているように考えられる。しかし実際選挙は日本全国に目を向ければ至る所で常に行われており、同時に信頼性も重要であることから向いていない。
では医療も信頼性は重要であるからクラウドに向かないのではないかと思える。もちろんある程度の信頼を確保することは必要であるが、実際には費用対効果を考えたときにメリットの方がはるかに大きいため向いているといえる。「e-Health」の書評でもくわしく言及した通りである。教育は成績など共有するべきでないものもあるが、授業内容や蔵書などのコンテンツに関して共有できた場合のメリットが大きい。
②グーグルブックス
グーグルブックスが根本的に他の電子書籍プラットホームと異なっているのは、他の電子書籍サイトが本の売買をメインとしている一方でグーグルブックスは「本の中身を検索する」ということに主眼を置いていることである。だから古今東西の書籍のデータ化を行ってきているが、当然著作権の切れていない本に関しては全文閲覧することは出来ない。そのため出版社・書店からの広告を入れることでいつもと変わらず「広告費」を収入源としようとしているのである。電子書籍の販売は広告がついていない書籍に関して穴埋め的に行う意図があるのである。
こうした本の中身に検索がヒットするという事態が進展してゆけば書籍の部分購入ということが起こり得るかもしれないと筆者は予測する。こうしたパッケージの解体・マイクロコンテンツ化はメリットは存在するものの、人々の知のありかたも不可逆に変化させるので慎重にならなくてはならないと筆者は警戒する。
③法と技術革新
ネット上のサービスが「法的にグレー」になりやすいのはインターネットの革新的なサービスは既存の法律の規定や想定範囲を上回ることがしばしばであるからだ。
ここで各国の法律へのスタンスの違いが現れる。アメリカでは法律が追い付いていないサービスに関して「とりあえず初めてみてなにか問題が生じたら裁判で議論すればいい」という考えが一般的だ。しかし日本では「今ある法の遵守」の方がウェイトが大きい。とりわけ大手企業も訴訟リスクに敏感である。革新的なものを生み出す環境の違いの問題はかなり根深いようである。