SF短編集を読んだような読後感。どの作品も作品の中で音楽が流れていると言うよりは、その作品に相応しい「音」「効果音」が流れている感じがする。
第1話『夜とコンクリート』→眠れない建築士の友人が他人と酔い潰れている場面に遭遇、仕方なく家に連れて来なくてはならない事になる。この建築士は自分が眠れない事に対しての苛立ちを持っているからか、毎度限度を知らず酔い潰れる友人に呆れているからか、他社に対する優しさを出せない人間。見ず知らずで飲み始めて酔い潰れタクシーに乗車拒否された友人を建築士の元まで連れて来た青年に礼の一つも言わない。友人が「他人同士」で飲み始めたと言う青年に対して不信感・邪魔扱いしてるようにさえ見える。これは建築士が「しょうがない奴」と思いながら友人との縁は切れないと思っているからか、それに因って飲み屋で見知らぬ人と飲んでしまう友人のコミュ能力の高さに嫉妬しているのか、それがある種の同性愛的な感情でもあるのか、と言う具合に何通りも深読みできるほどに余計な説明が一切ない。建築士は友人と一緒に泥酔してしまった青年が目を覚まし、少し話をする。青年は信じて貰えないかもしれないが「建物が喋っている事が解る」と言う。明確に声を発してるわけではないが、何かつぶやいているのが聴こえると言う。そして、建物たちも眠りに着く。自分の設計した建物たちも喋っているのだろうか、と思いを馳せた時、建築士は眠る事が出来た、と言う話だ。全部言っちゃったらネタばれるだろう、とか心配せずとも、読んでこの作品の空気感を味わえれば良いので、是非読んで欲しい。
2作目『夏休みの町』→ちょっと不思議なSF物語、と言う感じが好きな人にはたまらない作品。66年前、第二次世界大戦中、爆撃機に乗っていた友人を連れ戻したい、と言う不可思議な老人と出会い、老人の手伝いをすることになるソウ他、友人二人の(男女)物語…であるが、読めば分かるオチが凄い。しかも、主人公の大学生ソウと、男子の友人と女子の友人との距離感がBL好きを唸らせるものがある。
第3話『青いサイダー』→子供の頃の孤独感のお話。
第4話『発泡酒』→4作品中、一番短く一番BL臭い。安易に「BL臭い」としか表現できないが、性愛を含むBLの生々しさへ行く前の、これは何と言う感情だろうか、と言う「曖昧さ」が見事に紙面上に表現されている。
雰囲気BLでもなく、少女漫画でもない、もう、独特の空気感と音が聴こえてくる。BGMが流れてくる感じではなくて、空気が鳴る音みたいな、そう言う音が流れていると言うか、聴こえてくる。凄い作品だよ、これは。はっきり、BLではないと思うんだが、BLを好き好んで読んでいる人間の琴線にそっと触れてくる傑作。ずっと手元に置いておきたくなる、幼い頃に読んだ絵本の様な…日常に潜むSF短編とか好きな人は読んで欲しいわー。本の装丁、手触りもこの作品らしくて、なんか大切に取って置きたくなる。音楽CDのライナーノーツにアルバムの世界観をまとめて寄稿されたコミックス、って感じがするんだよなぁ。作中には「音楽」ではなく「音」が流れているのだが。不思議な作品だよ。