著者は昭和41年の第八次南極観測隊員で地震や火山噴火予知の研究者(極地研の名誉教授)。
南極は陸,北極は海であるため,両者は同じ局地とはいえ対照的。もちろんどちらも寒いが,南極の方がずっと寒い。北極海の海水は-1.9℃と高いのに,南極は大陸で分厚い氷床に覆われているから。これは巨大な冷源になり,
...続きを読む地球全体の気候にも影響を及ぼしている。
南極では地表より上空の気温が高いために,強烈な風も吹く。そんな厳しい気候のために,南極には生物が極めて少ない。ペンギンは南極海を棲息地にしているのであって,陸地だけでは生きられない。南極には木はなく,草も二種類。あとは苔とか。北極圏にはシダ植物や顕花植物が豊富。植物があれば草食動物がいて,さらに肉食動物もいる。北極にはカリブー(家畜化するとトナカイ),アザラシ,シロクマなどの大型哺乳類がいるが,南極にはダニとかトビムシしかいない。人間も,北極ではイヌイットやラップなど千年以上も前から住んでいたが,南極はずっと無人だった。
とはいえ南極が重要でないわけではなく,様々な観測・研究がなされている。氷床コアから地球が経験した過去何万年間の気候変動がわかるし,「超高層物理学(オーロラ研究)」も盛ん。著者は三大発見としてオゾンホール,南極隕石,氷底湖を挙げている。
氷底湖とは,分厚い氷床の下にある巨大な水たまり。ロシアのボストーク基地の下に初めて発見された。未知の生物がいるかもしれない。氷床は年間十メートルほど動いていて,南極点に旗を立ててもずれていってしまうので毎年新しいのを立てる。地盤の地形によって流れが速くなると氷流→氷河となる。氷床はグリーンランドにもある。氷床が流れてそのまま海に浮かんだのが棚氷。南極のロス棚氷はフランスと同じ面積!百年も前に日本人として初めて南極を探検した白瀬は,一片の岩石も持ち帰れず悔しい思いをしたが,ロス棚氷を出られなかったので無理もなかった。
南極で恐竜の化石が見つかっているのは意外。南極大陸は昔から南極にあったのではなく,ゴンドワナ大陸の一部で,中緯度にあった。それが分裂して南下し,五千万年前くらいに氷の大陸になったらしい。
南極基地の話もあった。これは去年だったかに読んだ「南極料理人」シリーズでもっと詳しく面白く紹介されていた。五十年以上も連綿と続いているのはすごい。その間に基地の居住性,通信環境は格段の進歩を遂げた。