遺体の解剖から動物の進化の歴史を探るという、その名も『解剖学』。なかなか興味深い学問です。
幾度となく迫られた『設計変更』=進化の系譜を解剖によって解明する。億年単位の生物の歴史を探究する壮大な学問です。
池谷裕二さんが研究する脳について、『脳には機能の使い回しが見受けられる』というような内容があ
...続きを読むりました。『設計変更』というテーマでいえば、池谷裕二さんと遠藤秀紀さんのリンクが完成したわけです。
内臓や骨格だけが長い歴史の中で『設計変更』を迫られたわけではなく、脳についても同じ事が言えるというのは、言ってみれば当たり前なのかも知れません。
無から新しい機能を生み出すよりも、『機能の使い回し』や『設計変更』が進化の常套手段だとしたら、無から有を生み出す創造力というのは莫大なエネルギーと時間を使うはずで、これは人間の永遠のテーマになりそうです。
『海馬』の感想で書いたように、補助線の引き方が重要で、例えば、僕は中学の頃、数学の証明が好きでしたが、証明を成立させるための補助線の引き方(○○=×××になるため、××=□□□となる、よって合同となる、等)が下手で、友達にヒントをもらって問題を解いた記憶があります。
数学に限らず、物事を考える時に、補助線の引き方が上手いと、問題の解決がよりスマートになるはずで、この能力の育て方が確立すれば、学問全般の解明スピードが飛躍的に向上するでしょう。
『使い回し』による進化も、土台(派生要素)が無ければ進化しないわけで、その点で言えば、人間が鳥みたく羽を生やして大空を舞うことは出来そうにありません。そのあたりは『ゾウの時間 ネズミの時間』と併せて読むと面白いと思います。
しかし、進化の系譜は解明されつつありますが、決定打となる『進化途中』の生物が発見されておらず、所謂ミッシングリングが遺骨や化石で発見されれば、さらに進化史の発展に期待できそうです。そういった意味では、まだまだ学問の途上段階で、今後の発見が楽しみな分野と言えるでしょう。
しなしながら、解剖学の存続・発展は厳しいようで、成果主義の強引な押し進めによって、なかなか厳しいようです。終章に綴られた著者の語り口には受難に立ち向かおうとする気概が感じられて、応援したくなります。
成果主義については僕自身疑問に思うところがあるので、何とか是正してほしいと思います。目先の利害にとらわれてしまい、長期的にしか結果の出ない問題を蔑ろにしている風潮、競争心を煽るのは、充実感の伴わない虚無感、徒に疲弊を招くだけです。
なるほど面白い部分がたくさんあって、勉強になりました。
とても読みやすく、好感が持てました。僕の評価はA+にします。