平田俊子『スバらしきバス』ちくま文庫。
詩人である著者がバスに乗り続けた日々を描く乗り物エッセイの名著。
知らない土地でバスに乗るのは非常に勇気がいる。地方、特に田舎に行くと尚更で、バス停に貼ってある時刻表は平日に比べ、土日祝日はかなり間引きされ、果たしてそのバスが定刻通りに来るのか、或いは乗り継ぎのバスや電車に間に合うのか不安になる。何しろ田舎の場合は終点まで真っ直ぐ向かえば15分なのに、一つの路線で広範囲の地域を網羅しようとしてバス停をぐるぐる周るので、終点まで60分以上掛かるのはザラである。
首都圏でも渋滞などで定刻通りに目的地に着くのか、この路線は目的地を通るのかといった不安があるだろう。
著者もこうしたバスに乗ることの不安をデフォルメしながら面白可笑しく表現している。電車やタクシーに比べてバスは目的地までの時間が掛かる反面、その時間を景色を楽しんだり、読書や人間観察に使えるという面白さもあるようだ。
このエッセイを読んでいると、バスの車窓を眺めながら、或いはバス停の名前から妄想を膨らませたりする大らかなバスの時間を楽しむ著者の姿が目に浮かぶようだ。
昨年から書き始めた5年日記によれば、最後にバスに乗ったのは昨年の11月だ。郡山駅前のホテルで行われた会合に出席した帰り道、郡山駅からローカル線に乗り、最寄りの駅からバスに乗った。バスといっても利用者が余り居ないのでワンボックスカーである。どこで降りても一律200円。しかも、当日に限り乗り継ぎが出来るという優れモノなのだ。バスに乗客は自分1人で、見習い運転手1人にルートを教える先輩が1人乗るという多勢に無勢、余りにも不利な状況だった。田舎のポツンと一軒家に移住して来たばかりの自分はバスに30分程乗り、家から500メートル離れたバス停で降りた。真っ暗闇の中を橋を渡り、家に向かって歩きながら、こんな闇夜を歩いていてはタヌキかキツネに化かされそうだななどと考えていた。
本体価格840円
★★★★