ファッションホテルを舞台に男女恋愛を描く青春小説、透明度の高さに吸い込まれちゃう… #海のシンバル
■あらすじ
青年磯部は下関のファッションホテル「ピシナム」で働いていた。彼は人とコミュニケーションをとるのが苦手で、ホテルの仕事は身の丈に合っていたのだ。
ある日ホテルで売春をしているらしき女子高生から、客室と受付を繋ぐ気送管を使って手紙が送られてきた。それから二人は定期的な手紙のやり取りをするのだが…
■きっと読みたくなるレビュー
人間には呼吸ができる環境ってのがある。
何の不便もなく幸せに暮らせているときには「呼吸ができる環境」ってのに全く気付かない。しかし仕事や人間関係が辛いときなど、上手く回っていない時は、どこで・どうやって呼吸をしたらいのかわからなくなってしまう。
私も若い頃は何もかもが思い通りにならなくて、ずっーと足掻いてことを思い出しちゃいましたね。
さて本作はファッションホテルを舞台に男女を描く恋愛&青春小説。どっちかというと悩める青春要素が強い。
まず思ったのは、とんでもない「力作」だということ。作者の思い入れ、力の入れ具合がビシバシ伝わってきました。主人公、悩める青年磯部が良く書けてるんです、もはや目の前に彼がいるみたい。
本作の中で彼は「読書や映画が好き」というクダリがありのですが、マジ共感できるわー。私もそうなんですが、読書や映画って、人と直接関わるとう面倒ことをしなくても、人の気持ちに触れられるんだよね。そのまま居心地のいい場所に居座ってしまう気持ちもわかる。
ちなみにキャラクターで個人的イチ推しはマリーさんですね。男ってこういうお姉さんキャラに憧れちゃうよねー、誰しも一度くらいは若かりし頃に出会ったりする。でも彼女の優しさに素直に甘えられないってのも男の悲しさ、小さなプライドでもある。
そして本作では、我が国日本にとって大変重要なテーマが描かれています。それは物語の端々で描かれ、細かなディティールもあれば、かなり勇気が必要な直接的な描写もありました。でもそのテーマを書きたい、心にとめておかなければいけない、という作者の情熱がしっかりと伝わってきましたね。
読めば読むほど本の中に吸い込まれてしまうような透明度の高い青春小説、胸にくる切ないお話でした。なお装画も素敵です、裏表紙の男性が気送管を持ってるのも見逃せませんね。
■ぜっさん推しポイント
気送管を使って短い手紙をやり取りするという、なんともアナログで不器用な二人。誰しもすぐに結果が欲しい現代で、やたら幸せに対して遠回りをしているようにみえます。でもその徒労の多いやり取り中に、二人だけがわずかに呼吸できる環境があるんだと思いました。
皆さんはちゃんと呼吸ができてますか?
もし辛いことが多いなら、これまでの過去に執着せず前向きに生きてほしい。悩みや不安を乗り越えるためには、それより大きな喜びや楽しみを得るしかないのですから。