坂本泰紀のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
青森の公社で14億円横領してチリのアニータという女性に貢いだ事件は
世間を騒がせ、私も記憶している。もう数十年前の事件。
記者は、刑期を終え、しかし就職できず、生活保護で暮らすこの男、千田郁司を
取材し、事件の詳細を改めて記している。
そもそも何でそんな大金を青森県住宅供給公社から横領できたのか。
そしてその金はどこに行ったのか。
詳しく書かれている。
職業柄どうしてもその公社の内部統制が気になる、と思ったら、
青森県の役人の天下り先、それも腰かけ、2年しかいない、
プロパーは課長以上になれない、利益をあげちゃいけない、
企業体のていをなしてない。そんなところに隙があり、14億も使い込まれても
きがつかない。いい加減。
一方のチリの売春婦アニータは、こりゃもうどうでもいい。
酷い女はいるもんだ。出会ったときはがりがりだったのが、どんどんふくよかに
なったという。金づるを手に入れたらそうなるわけだ。
彼女の言い分はあるんだろうけど、ま、どうでもいい。
いい加減な企業に、動機を持つ弱い男が行動に出てしまった、
そういうことがよくわかって、勉強になった。
プロローグ
《Side A》
1 キャンディ
2 ウエディング・ベル
3 MONEY
4 少年時代
5 異邦人
6 ラヴ・イズ・オーヴァー
7 逃亡者
8 酒と泪と男と女
9 息子
10 逆流
11 碧い瞳のエリス
《Side B》
12 初恋
13 銃爪
14 津軽平野
15 Geisha
16 Yes?No
17 失恋レストラン
18 腕に虹だけ
19 黒い瞳のアニータ
エピローグ
あとがき
付録 -
購入済み
不思議な清々しさ
事件の報道はぼんやり覚えている程度だったが、
強烈な表紙のイラストとSNSでの評判が気になって読んでみた。
ファンタジックな導入部からまたたく間に貢ぎに貢ぐ日々が描かれる。
金は紙袋ではなくビニール袋に入れたほうがいいって
どういう生活の知恵?とツッコミを入れつつ
千田氏とアニータのその後の人生の見事な明暗に圧倒される。
千田氏の妙な憎めなさがこの本の読後感を奇妙に清々しいものにしているような。 -
Posted by ブクログ
青森県住宅供給公社巨額横領事件を題材にしたノンフィクション。
読んでいる最中は正直、「なんでそんなことになるんだ」と何度も思った。
金額も行動もあまりに極端で、特に横領した千田郁司に対しては、同情より「自業自得」という感覚の方がかなり強かった。
ただ、この事件を単純に「悪女に騙された哀れな男」で片付けるのも違う気がした。
印象的だったのは、千田郁司がアニータ以前にもホステスへ貢いで横領していたこと。つまり、問題の核はアニータ個人というより、「自分を別の人生へ連れて行ってくれる幻想」に、本人が強く惹かれていた部分なのではないかと思った。
しかも最後まで感じたのは、彼のナルシズムだった。
“アニータを愛する自分”
“特別な関係にいる自分”
に酔っていたように見える。
だから途中で現実が見えても止まれなかったのかもしれない。
一方で、アニータ自身には、細木数子のような怪物的カリスマはそこまで感じなかった。だからこそ、この事件は「圧倒的な悪女に支配された話」というより、「本人が自分の幻想へ突っ込んでいった話」に見えた。
また、この本を読んでいて強く感じたのは、
“身の丈を知っている人ほど、背伸びしたくなる”
ということ。
将棋が好きで、夜の店に通うタイプにも見えない人物だからこそ、今とは違う人生へ憧れてしまったのかもしれない。
もちろん、だからといって同情はできない。ただ、単なる「馬鹿な話」で終わらせるには、人間の欲望や自己陶酔の怖さがかなり詰まっていた。 -
Posted by ブクログ
アニータの夫である千田へのインタビューは「自分が悪い」とは言いつつ、その一方で他責性や自己弁護も目立つ。本当のところは、特に自分が悪いとは思っていないのだろう。村八分とされてしまった故郷の青森に帰れなくなった後悔はあっても、青森の人々に対する贖罪の意識は見えない。
千田の特徴として指摘されている要領の良さ。これは千田本人も「頭はよくないが要領はいい」と自認しており、たしかに読んでいるとそんなかんじだった。釣りにせよ将棋にせよ、コツを掴むのが上手く、それが横領にも活かされたんだろう。
特に将棋はアマ五段とのことで、これはアマチュアではトップクラスの実力である。子どもたちに教えていたこともあったそうで、そのままなら穏やかな人生が待っていたはずである。ただ、千田が繁華街にハマっていくきっかけになったのも将棋が大きく関係しているので、いずれにせよ変わらなかったのかもしれない。
変わらないといえばアニータ。
千田は「アニータはもともと純真無垢だったのに自分が大金を与えたせいで変わってしまったのかもしれない」という。すべて間違っていると思う。千田にそんな影響力はない。
アニータからすれば千田は人間でさえなく、キャッシュカードの暗証番号くらいにしか思ってなかっただろう。チリから頻繁に無心の電話がかかってきたそうだが、アニータとしては振込申請をしていたくらいの感覚のはずだ。
アニータは横領のことを知らなかったという。そのとおりなのかもしれないし、本当は知っていたのかもしれない。しかしいずれにしろ、そんなことはどうでもよかったのだろう。自分を買春する男がどうやって稼いでるかを気にする売春婦などいない。
本書は朝日新聞デジタルに掲載されていた連載を書籍化したもの。序盤、記者の書く手垢のついた表現や、歌謡曲を使った各章のタイトルなどのセンスには辟易としたが、後半の新聞記事文体はよかった。序盤の文章を見る限り、この著者に軽妙な文章を書ける感性はまったくないと思う。
そもそもアニータ事件はゴシップ的な視点で扱われることが多く、それとは別視点で行うからこそ本書の価値はあるはずで、後半の新聞記事的文体でのルポこそ意味がある。
とにかく序盤を読んでいると、まじめな教師が無理してウケ狙いの発言をしてきたときかのような気恥ずかしさを感じる部分があり、本の内容自体は良かっただけに、そこだけが悔やまれる。 -
Posted by ブクログ
アニータは、現在チリで、インスタフォロワーの80万人のインフルエンサーとしてのし上がっていたらしい。週に3回、インスタで車について投稿することを条件に新車を譲ってもらったことなども本書で書いていた。
チリの中でも、彼女の評価は賛否両論で、貧しい環境の中で必死に子供を育て上げた女性の代表と肯定的に評価する意見もあれば、人を騙したり、売春してまでお金を得るのは倫理的に受け入れられない。という否定的な意見もあるのだそう。
一方、14億円もの横領罪で逮捕された千田は、刑期を終えて出所しても過去の噂がどうしてもついて周り、職がなかなか見つからず、両親にも迷惑をかけてしまい、散々な人生を歩んでいる。
再就職がなかなか決まらず、就職斡旋所から経理の職種を勧められたときに、両親から、何かあったら、お前のせいにされるからやめておけと言われたのは、ちょっと笑ってしまった。
本書で、アニータに会いに30時間かけてチリに会いに行った時に、アニータが大遅刻して迎えにきてくれなかった時に日本に引き返してきたら,こんなことにはならなかったのかと何度か後悔をする描写があったが、千田はアニータと出会う前から、夜の店でかさんだ借金などを会社の金を横領して帳消しにしていたそうなので、アニータと出会わなかったとしても別の形で同じような結果になっていたのでは、、、と感じた。