エリザベス・ロフタス、キャサリン・ケッチャム『目撃証言』ちくま学術文庫。
著者自身が関わった裁判例からその実態に迫る傑作ノンフィクション。
人間の記憶ほど当てにならないものは無い。ビデオカメラやICレコーダーとは異なり、人間の記憶は最初から不確かであり、経年により大きく歪められたりするのだ。そうした人間の不確かな記憶、偽りの記憶が犯罪裁判の重要証拠になるとすれば、時に冤罪を作り出すことになる。
『謝辞』『覚書』に始まり、『日本語版への序文』、『ちくま学芸文庫版への序文』となかなか本編が始まらないのは、学芸文庫たる所以であろうか。
犯行現場や犯人らしき人物を見たという証言や当事者の記憶は犯人を特定し、事件の全容を解明する上で最も確実なものと思われがちなのだが、実際には間違いなくその瞬間を見たはずでも、あるいは自身が当事者であったとしても、その記憶は驚くほど不確かで当てにならない。
本作の著者の1人であるエリザベス・ロフタスは、偽りの記憶が生成される過程を明らかにした心理学者であり、多くの法廷で長年、専門家として証言してきた。実際の裁判例に基づき、人々の記憶が時に無意識的に、時に捜査手法に誘導されることで、如何に書き換えられていくかを克明に描き出す。
最初に紹介された被害者の目撃証言による冤罪事件は悲惨極まりない。犯行当時、スティーブ・タイタスという青年がガールフレンドとデートしていたにも関わらず、彼の容姿が犯人と似ていたとして、強姦事件の被害者女性から名指しされ、犯人にされてしまうのだ。弁護士を雇い、保釈金を払い、裁判で無実を訴え、苦労の末に勝利したタイタスだったが、仕事は解雇され、無一文になり、ガールフレンドから別れを告げられる。全てを失ったタイタスは35歳の若さで亡くなる。
日本でも冤罪事件は少なからずあり、警察による証拠捏造や最初から容疑者を犯人と決め付けた強引な捜査によるものが多いように思う。その過程で歪められた目撃証言が証拠に採用される場合もあるのだが、警察による恣意的な捜査の過ちによるところが大きい。
本体価格1,700円
★★★★