木野寿彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
期間工である宮田と浜野の友情と一年を描いた小説、というと何だか爽やかなイメージをされそうだけれど、アダルトビデオだとか変なオナホだとか自慰指南書といったものがストーリーの歯車として使われていて、全体の空気感は猥雑でじっとりと湿っている。ただその部分と淡々と書かれる文章ががっちりと噛み合っていて読み心地は不思議と良い。粗雑な職場環境で作業をこなしていく陰鬱な日々の中で、ふと垣間見る浜野のとぼけ具合やおかしみが、意図以上のものに増幅されることなく受け取れるサイズで宮田に届いているのがしみじみとした余韻を読後に残す。まったくタイプが違う小説ではあるけれど、私は読んでいて『成瀬』シリーズの成瀬のことを思い出しました。真っ直ぐで、嘘がなく、大切な友人の為に行動できる、そんな得がたい存在が宮田と小説を最後までギリギリのところで崩れないように支えているように感じました。次にどんな文章で、どんな小説を書くのか本当に楽しみです。
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Posted by ブクログ
静かに魂を揺さぶられる、生の哲学が凝縮された一冊。
この物語は、社会の競争から疲れ果て、「他に生きられる場所がない」と諦観した宮田の内面を、極めて繊細に描き出します。華やかな展開は一切ありません。あるのは、単調な工場の流れ作業と、絶望と「まだやれる」という抗いが、静かに終わりと始まりを繰り返す主人公の心の声だけです。
心身を「透明な存在」にすることで安息を得ようとしたはずが、友人・浜野のユーモアと哲学は、逃げ込んだはずの場所で、かえって「生きることの責任」を強く突きつけます。最も困難な選択、それは「自らの生を能動的に選ぶ」こと。彼の心は常に、自己の罪悪感と、凡庸な日常に潜む「大したことのない理由」こそが、次に繋ぐ唯一の力だと気づかされる間で揺れ動きます。
この小説は、孤独と痛みを抱え、社会の周縁で生きる人々の「内なる姿」を克明に捉えています。派手な救済や奇跡はありませんが、だからこそ、小さな希望を積み重ねて生を肯定しようとする切実な決意が、心にも深く響きます。静かな筆致の裏に隠された、人間の根源的な強さを感じたい人に、そっと手渡したい作品です。 -
Posted by ブクログ
心身ともに疲弊し前職を辞めて山奥の工場の期間工になった宮田と、同じ期間工で唯一の友人である浜野のなんでもない毎日。
スキルアップなど望めず、いくらでも取り替えがきき、もはや人間での扱いですらない工場での労働の日々。不満エネルギーの解消のために他人を消費する者たち。考えることをやめ、ただ刹那的に日々を生きる姿は閉塞感しかない。
これもプロレタリア文学と呼べるのだろうか。かつて読んだプロレタリア作品は、もっと怒りややるせなさに満ちていて、それでも必死に這いあがろうとするエネルギーを感じて胸が熱くなったものだけど、この作品は登場人物にそんな熱量を感じなかった。これも時代なのかな。
自らを「降人」と呼び、強いられたのではなく自ら選択して降りたのだと嘯く浜野。戦う前からリングを降りる姿に共感はできない。
最後、すんでのところで死を回避した宮田が、人生を降りないでいてほしいな。