心身ともに疲弊して仕事を辞め、山の中の工場にて期間工として働く30歳。つくっているのはベルトの部品。一日中同じところに立ち、流れて来る製品を同じ手順でチェックするというだけの、圧倒的流れ作業の単純労働。現状に満足している人は社員を含め誰もおらず、だから、社員と期間工の間で、残業前に支給されるパンを巡る、本当にクソほどどうでもいい小競り合いが勃発する。自転車が盗まれたり、それがきっかけで女の人と知り合ったり、ほのかな恋心を抱いたり、それがずたずたに引き裂かれたり、寄ってくる期間工がいたりの一年。あることがきっかけで、退職に追い込まれる。
哀しみしかない期間工の生活を、淡々と描写している。ただただ暗い話にならないのは、浜野という、映画と自慰の話ばかりする同郷の友人のおかげだ。「降りる人」という生き方を体現する浜野は、達観した存在。「働いて家に帰ったら好きな飯を食える。それから気持ちのいい射精をして、八時間ぐっすり眠れる。これで十分だろ」生きる意味を求める主人公は、彼が頼もしく羨ましい。「一日五回の自慰」を進められ、大量のアダルトDVDを渡される。五回の自慰はしなかったが、何かが開ける。最終、道を誤りかけた主人公を救うのも、浜野である。
以下、いいなと思った文の抜き書き。
「自動掃除機が僕の前で止まった。僕がゴミなのか考えているみたいだった。」
「クソみたいな昼夜逆転シフトに耐えるためには、目の前に見下せる人間がいないと正気を保てないんだよ。要するに、俺たちはあいつらの正気のためにいるんだ」
「小学校の後輩なんかを触媒にして、ありもしない過去へ帰りたいほど、この人は悲しいのだろうと思った。」
「お前も、他の奴がニ、三年で習得することが何もできなかったからここにいるんだろ。ここでお前は、毎日毎日何も習熟しない自分を作ってんだよ」
帯に書かれた担当編集者の言葉、「この小説に救われる人が、必ずいる。そう強く思えた作品です。」の通りの、青い、いい作品だった。