古典の解説というよりは、『古典初心者の人に、古典の親しみやすさを伝えて古典の面白さを知ってもらう』ための本とのこと。実際に本のつくりとしてはあらすじや古典としての価値や評価を解説するというよりも、「面白いところをどう面白いか語る」というニュアンスが強く感じられた。
文章は平易。冒頭で本のスタンスを明確に提示し、面白い古典文学の紹介→それを愛する人々の話→有名作品の詳しい解説という順序もわかりやすかった。
内容だと『玉水物語』の解説で描かれる、雄狐が姫に恋して女中になるという奇抜な設定と、その献身ぶりはあらすじを読んでいるだけで感動するくらい面白かった。栞葉さんが本当にこの作品を面白いと思っているからこその臨場感だと思う。また豊富な挿絵も可愛くて表情豊かでとても良い。枕草子の章の最終頁の清少納言はイラストだけで泣ける。
『源氏物語』を、あらすじではなく「光源氏悪行の裁判」という形式で紹介しているのも変化球で楽しい。カスかな?→カスじゃないかも→カスだなのカス・ジェットコースター。
あと『落窪物語』の解説で(典薬助はうんちを漏らした)とかいうどうでもいい追記でサービス精神が発揮されてるのも素晴らしい。
また古典の内容だけでなく前提知識としての当時の解説も良かった。平安貴族たちは意外に暴力的だったり(作者のyoutube配信でも似た趣旨のものがあった。面白かった)、二次創作めいた創作活動に熱中していたりと、人間くさく俗っぽい一面が身近。私も本居宣長は六条御息所推しだと思う。
こういう本を読むと、自分が今好きな文化の多くが古典文化・ひいてはすべての文化史を下地にしていることを改めて実感できる。昔の「好き」を愛する人がそれを楽しく紹介している本で、こちらも楽しく気軽に読めた。