本書は、「幸福な人生」「意味のある人生」に加えて、第三の選択肢として「心理的に豊かな人生」を提示しているところに大きな特徴があります。幸福は快適さや安心感、小さなポジティブ体験の積み重ねから生まれ、意味は他者への貢献や献身によって得られるのだとか。一方で著者は、これらが過度に追求されると、葛藤や挑戦を避ける「ほどほど満足」に陥り、結果として後悔や未消化感を抱えた人生になり得るという“わな”を指摘しています。
心理的に豊かな人生は、新奇性、強烈さ、複雑さ、そして視点の変化を伴う経験によって形づくられるようです。そこには必ずしも快適さや安定はありません。不安、恐れ、嫉妬、失敗といったネガティブな感情も含まれますが、こうした感情こそが人生に厚みを与え、世界の見え方を更新する契機になるのだとか。幸福感は必ずしも高くならないが、振り返ったときに「生きた実感」を得やすいのが心理的豊かさの特徴のようです。
また、早期専門化のリスクや燃え尽きの問題に触れつつ、遊び心や突発性の重要性が語られる点も示唆的でした。単調さを破り、偶然を受け入れる姿勢が、人生に再び活力と学びをもたらすとの意見には同意します。さらに、逆境や困難でさえも、視点の転換によって心理的豊かさへと変換し得るという見方は、単なる楽観論ではなく、経験の意味づけの技術として実践的であると思いました。
本書の価値は、「幸せであること」や「役に立つこと」だけを人生の評価軸にしがちな現代に対し、「揺さぶられ、変化し続けること」そのものにも価値があると再定義している点にあります。快適さを多少手放してでも、未知や複雑さに踏み出す。その選択が、結果として後悔の少ない人生につながるというメッセージは、安定志向に傾きやすい大人世代にこそ刺さる内容なのではないでしょうか。