本書は、Goの並行処理を「概念→実装→パターン→落とし穴」の流れで系統立てて掴める良書という印象でした。序盤はCSP思想やアムダール/グスタフソンの法則を押さえ、なぜGoがゴルーチンとチャネルを中核に据えるのかを腹落ちさせます。続く章で、OS/ユーザースレッドとM:Nスケジューリング、LRQ/GRQやワークスティーリングまで踏み込むため、ブラックボックスだった実行時の挙動が見える化され、設計判断の根拠が増えます。共有メモリの競合・ハイゼンバグから出発して、Mutex/RWMutex、Cond、セマフォ、WaitGroup/バリアと段階的に同期原語を学び、目的別にどう使い分けるべきかが明瞭です。チャネルとselectは、クローズ、方向制限、バッファ、タイムアウト、nilチャネルなど実務で必要な作法が網羅され、CSPパターン(パイプライン、ファンイン/アウト、quitチャネル、ブロードキャスト)も具体的です。さらに、分解戦略やワーカープール、フォーク/ジョイン、パイプライン最適化といったパフォーマンス志向の視点が実装に橋を架けます。デッドロックはCoffmanの4条件、RAG、銀行家のアルゴリズムまで扱い、チャネルでも循環待ちが起こるという“Goならでは”の注意点を明示。終盤のアトミックやスピンロック、Mutex内部のセマフォ実装への言及は、低レイヤの理解を補強し、いたずらな最適化や誤用を戒めます。総じて、基礎理論からランタイム、言語機能、設計パターン、アンチパターンまで縦断的に学べるため、Goで並行処理を本気で身につけたい読者に強く勧められる内容です。実装時の指針が増え、トレードオフを自分で評価する力が確実に養われます。