原田昌博のレビュー一覧
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所謂「欧州近現代史」という分野の本だ。専門的研究による成果を一般読者に判り易く説くという「新書」らしい感じの興味深い内容である。
全く知らないという程でもない「戦間期のドイツ」だが、「そこまで?」と驚く他無いような様子も見受けられたということで、本書の内容をゆっくりと読んだ。本書に出会って善かったと思う。
本書は題名に「ナチズム前夜」と在る。第1次大戦後、ドイツでは帝政が廃されて共和国が起った。所謂「ワイマル共和国」である。そして1920年代の様々な経過が在って、やがて1930年代初めにヒトラー政権が登場し、ナチズムの体制ということになって行く。それを踏まえた題名で「主に1920年代頃の事柄や -
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たった14年とはいえ、先進的民主主義国家であったワイマル共和国を、暴力の観点から捉えた本。ミュンヘン一揆までの国家転覆を狙う暴力、ヒトラー首相就任までのプロパガンダとしての暴力、ヒトラー首相就任後の国家による暴力と3つの時期に分けて解説する。暴力が日常的すぎる環境が描き出される。ナチスはSAによる暴力沙汰があった「のに」支持されたのではなく、暴力沙汰があった「から」支持されたという異常な文章が当時を物語る。しかしこの本の圧巻は序章と最終章にある。世界を敵と味方に二分する単純化を行い、身体的であろうが言語的であろうが暴力を用いて自己の工程と他者の否定を行う光景は、現代に通じる。その危うさと同時に
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ドイツ第三帝国の前身となることになったワイマル共和国について、歴史的展開を掘り下げてどのようにしてナチスの台頭を招いたのかを分析している本。
簡単にまとめるならば、過激派していく右翼左翼両方の激突により、政治の場は国会から奪われ路上の騒乱となった。
その混乱をおさめるために議会を飛び越した強権的な大統領令が濫発され、ヒトラーによる権力掌握の下地を提供することとなったのだ。
共産主義者の過激な暴力がそういった下地を招いた面もあり、ある意味ナチス独裁の成立に共産主義者も加担していると言えよう。
両陣営専用の酒場が市中に点在しており、政治活動の場やさまざまな事件の現場となった話は初めて知って面白か -
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林健太郎の「ワイマル共和国」という良書がある。いまから約60年前に書かれた新書で、ということは戦後20年ほどしか経っていない。
タイトルの通り、ワイマル共和国の盛衰を描いているのだが、そちらはどこか他人事である。冷静で客観的といってもいいが、もはや戦後ではないと言わんばかりに距離をとって観測しているような文章だった。もしくは、過去のことを記録するために書かれた文章と捉えてもいい。
さて、本書は同じくワイマル共和国を取り扱っており、まだ書かれたばかりである。ワイマル共和国が崩壊してから100年近く経とうとしている。しかし、林健太郎の「ワイマル共和国」よりも危機感が充溢し、ワイマルとの距離が近い -
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本書は、1919年に最も先進的な人権規定を盛り込んだワイマル憲法の下で、ヴェルサイユ条約の過酷な敗戦条件を遵守しながらも、活気に満ちたワイマル文化を育んだ時代からどのようにファシズムへと突き進んでいったかを詳細に描き出している。
当初は「巷のケンカ」レベルだった左右両翼の反体制勢力が、ワイマル共和国に対峙しながら「体制転覆」を志向する暴力組織へと変質していった。一方、共和国政府側も特に左翼勢力に対して軍や義勇軍を導入し、容赦なく力で鎮圧。「ドイツ革命」「ミュンヘン一揆」を経る頃には、政治的闘争による犠牲者を出すような事件が「ありふれた光景」となり、ワイマル共和国の倒壊後はナチスと共産党の分断