本書の内容は、著者自身によって次のように要約されている(193-194頁)。
近代比較言語学の祖と言われるウィリアム・ジョーンズと、インドのカルカッタにおいて彼らによって創設されたベンガル・アジア協会の活動により、西洋におけるサンスクリット語の発見、そしてそれが印欧比較言語学へと発展する(第Ⅰ章)。
このサンスクリット語発見ののろしは、ヨーロッパに広がり、オリエンタル・ルネッサンスの華を咲かせることになる(第Ⅱ章)。こうして印欧比較言語学が成立すると、そこから印欧祖語という概念が生まれる。理論上の産物であった印欧祖語は、「再建」の手続によって実体をもったものとなっていくのだが、そこには言語学的古生物学という学問の寄与があった。こうして実体をもった印欧祖語の話し手たちはアーリヤ人として、ヨーロッパを席巻することになり、そしてヴェーダ文献の解釈から、紀元前15世紀ごろにおける「アーリヤ人の侵入」という説がマックス・ミュラーによって主張され、今日に至っている(第Ⅲ章)。
しかし、近年の考古学のめざましい発達によって、「アーリヤ人侵入説」には様々な疑問点があることが明らかになってきており、特に1990年代以降のヒンドゥ―・ナショナリストの台頭の中、その攻撃目標になっている。その主張の是非はともかく、学問的に見ても数々の問題点の訂正が迫られている、と著者は言う(第Ⅳ章)。
著者はインド諸言語のうち、ムンダ語族を専門とするのだが、そうした著者からすると、現在のインド学には、サiンスクリット語中心主義的なインド理解という重大な欠陥があると言う。サンスクリット語文献=ヒンドゥー教=インド文化という単一的インド観を乗り越えて、多元的インド観を確立すること、それが、本書の副題の「新インド学」の目指すところである。
今回の文庫化に当たり、「補章 出版二十年後に」が加えられた。危機に瀕する人文学系学問の状況などが赤裸々に綴られている。
本全体の構成からすると、アーリヤ人の問題に関する部分と新インド学に関わるところの関係とがあまりうまく繋がっていないように思えたし、少し詰め込み過ぎのように感じたが、著者の考えなどがストレートに表れていて、面白く読めた。