舞台は戦争が開始する前のウクライナ。主には2013〜2014年に起こった尊厳の革命と呼ばれるユーロマイダンを取り巻く人々の物語。歴史に残る事実とそれに関わったであろう人々の姿をフィクションだけどリアルに描いてる。ばらばらに見えたのに最後には繋がっていくのも読み応えがある。
文章の構成や描き方が独特で、すごく叙情的というか映画のような場面切り替え。コザークやコブザ(ウクライナの民族楽器)奏者の語りを入れていて、読む人によっては読みにくいと思うけど、私はすごく感傷を誘われて良かった。「どこから始まるかって?ああ、ああ。それは誰に訊くかによる―」という一節に表れるように、今現在引かれた国境では語りきれない歴史の変遷があの地域にはあって。〇〇人という民族なのか国なのか。ウクライナの言語もあるけど、人々は皆ロシア語も話せる。青と黄色、現在のウクライナ国旗。今闘っている人々は”国”のために闘う。
チェルノブイリの原発事故や旧ソ連時代の冷戦期スパイ活動、旧ソ連という大国のしがらみ、もしくは旧ソ連となるずっとずっと前の変遷のことも含めてすごく壮大に盛り込まれた小説。作者がアメリカ人だということに少し驚く。丁寧に取材して史実を調べたのではないかな。描く時に彼ら一人一人の気持ちに立って描かれているから(作者は登場人物の”声”を聞きながら物語を作ったという)、独特な雰囲気をまとって読むべき一冊になっていると思った。
まだ闘いは続いていて、過去形にせずに向き合わないといけないのだけど。生まれ育った愛着のある自国を脱出する以外の救いはどこにあるのだろう。
原題I Will Die in a Foreign Landは、ウクライナ民謡「Plyve Kacha po Tysyni」の一節から取られたもので、この歌は自らの国の特殊部隊によって殺されたウクライナ人抗議者、いわゆる”天国の百人”を悼む合同慰霊祭で歌われ、革命を象徴する楽曲となったらしい。