高橋杉雄のレビュー一覧
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「戦争はどのように始まったか」という切り口から国際政治を俯瞰した一冊。
両大戦と冷戦を例に、「安全保障のジレンマ」や「同盟のジレンマ」といったフレームを活用しながら、国家が武力行使に至る過程が分かりやすく解説されている。
一方で、このフレームワークを用いてこれからの国家の振る舞いを予測出来るわけでは無い。本書の後半、「いかに次の戦争を防ぐか」で議論されているように、例えば台湾有事も「過去の戦争のアナロジーで防ぐことはできない」。当然といえば当然であるか、戦争に至る過程は千差万別であり、だからこそあらゆる手段を組み合わせる人間の知恵が必要だ、ということを筆者は強調している。
これも筆者が繰り返し述べているが、戦争は一カ国が決心すれば始まってしまう。それを抑止するには、「軍事か外交か」といった二元論に陥いることなく、国家としての総合力、大戦略が適切に発揮されなければならない。戦争を防ぐ万能のワイルドカードの無い悩ましさが示唆されているように思う。
厳しい安全保障環境に直面する現代、市井の我々にとっても必読の一冊ではないか。 -
Posted by ブクログ
ロシアがバランシング(欧米に対抗)の道を選んだ意思決定に、モンゴル支配時代からの武力重視の価値観があったのか。
結局国家としての判断も最後はアイデンティティの話になる。
やっぱりここを理解するために「ロシアについて」を先に読んでおいてよかった。
戦争開始の判断を止めるための欧米の準備が弱い状況にあった。軍備対抗力や政治力的に、侵攻が有効な手段たり得るとロシアに思わせるものがあった。
長引いた理由の一つに、ロシアのクリミア侵攻での無血開城の成功がある。プーチンはウクライナ侵攻が1週間程度で成功終了すると見ていた。つまり慢心。また情報戦略で負けている。結局それら全て、軍事力だけでなく国家としての総合力が問われるということか。
また、台湾有事の際の備えについても言及があり(寧ろこちらが本題かも)、結局戦争を起こさないためには力の均衡を保ち発信することが最重要となるということ。悲しいけどこれ、現実なのよね。良著でした。 -
Posted by ブクログ
安全保障の専門家によるロシア・ウクライナ戦争の解説本。この戦争はなぜ始まったか、どのような戦争なのか、終わらせることができるのかの3点について、本質的かつ大局的な分析を展開している。加えて台湾海峡有事にも言及し、日本人が考えるべき安全保障の観点も示す。
専門的な知見が勉強になるのはもちろんだが、本書はとにかく論理が明快で冷静な点と、内容が必要十分で不足感も冗長感も皆無な点がすごい。今も続くこの戦争に対する見方がだいぶクリアになった。
現実的な分析ゆえに、「この戦争はアイデンティティの衝突という性格のため落とし所がなく、終わらせることが難しい。もし台湾海峡有事が生じた場合もその性格があり、終わらせるのはもっと難しくなり得る」という暗い結論が導かれるが、だからこそ抑止のためにどうすればいいか我々も考える必要があると論じている。 -
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ネタバレ本書では、「なぜロシアによるウクライナへの軍事侵攻は起きたのか」換言すると「なぜロシア(現状変更者)への抑止は機能しなかったのか」から論考を始め、どのように始まったかを見た後に、終わるとしたらどのようなシナリオを考えることができるかを見ていく。
(国内の事情を捨象する)システムレベルから見れば、背景には冷戦終結後の米国一強体制から、ロシア側の資源価格高騰に起因する経済復興と発言力の強まり、また米国側の対中政策へのシフトによる相対的な欧州の重要性の低下と、ロシアにとっての「機会の窓」は確実に広がっていたことが窺える。
また、新START後の体制で、ロシアの核戦力と米国のそれとのギャップが埋まる中で、戦略レベルでの安定性が構築されたことで、ロシアから見れば地域での侵攻が核戦争を引き起こすことはないだろうという、戦略レベルでの安定性が地域レベルでの不安定性を引き起こすという(”stability-instability paradox”)が観測されているのは、冷戦期に大国同士の交戦はなかったものの、地域単位での紛争(代理戦争)が生じた時代と根底は変わってないことが窺える。
ただ、今回米国側が実施していた「探知・開示による抑止」が失敗し、なぜロシア側にコストとして「認識」されなかったのかは掘り下げていく余地がありそうで興味深い。
この戦争の終わり方に着いては複数のシナリオの記載があるものの、本書で書かれているとおり双方にとってそれぞれが何者であるかというアイデンティティと結びついているため、どの段階で戦況を固定化させたとしても、双方にとって飲み込めないという終わらせることが非常に難しい点、あとがきにあるとおり、一度始まってしまうと終わらせることが非常に難しいため、始めさせないようにすることが重要という点は非常に首肯する。 -
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本書では、陸海空の戦争のみならず、サイバー空間や宇宙空間での戦争が、どのようなものを想定して自衛隊等が備えているのかを解説している。日本周辺の国々が、日本にどのようにして軍事力で打撃を与える可能性を有しているかについて丁寧に解説しており、我が国の安全保障の状況は非常に緊迫したものであることがよくわかった。
また、多くの日本人にとっての戦争とは、太平洋戦争であり、日本が他国に攻め入って始まったという侵略戦争である。そのため、敗戦して「日本は二度と他国を侵略しない」と誓う日本の平和主義が、日本人の安全保障に対する考えのアップデートを阻害している。
1945年の終戦から日本人の戦争観は変わっていない。「他国が侵略行為を起こしたときに日本はどうするのか」という、現代の切実な問いに日本人は答えられるのか。あとがきで筆者が提起する問題意識は多くの人に共有されるべきである。 -
Posted by ブクログ
国家としてのアイデンティティがロシアの考え方や感じ方を規定して、クリミア併合とロシア・ウクライナ戦争を選択させた。
これまでロシアの行動の理由の根本に何があるのかがわからなくて、ロシア・ウクライナ戦争勃発当初まことしやかにささやかれていたように、狂った独裁者にロシアが巻き込まれたという話が事実なのかどうか、いまだにいぶかしく思っていたけれど、国家としてのアイデンティティという考えを含めて考えると、すとんと納得できた。
考えてみれば当然だ。日本を含めた西側諸国だって、自由な民主主義国家というアイデンティティのためにウクライナを支援してきた。
この本の中でも盛んに論じられている、ロシアがウクライナで核兵器を使用する可能性についてだけれど、ソ連はチェルノブイリ原発事故でとどめを刺されたようなものだったし、核による被害についてのトラウマは旧ソ連国内にはまだ根強くあるんじゃないかと思う。
ロシアの目的はウクライナの国土強奪のはずだし、手に入れたい国土を核兵器で汚染させるだろうかと思う。
でも、手に入れたいはずのウクライナ人をブチャで虐殺したことを考えると、ロシアの核兵器使用に関する私の考えは、使わないでほしいという願望だけに基づいたものかも。
冷戦時代はイデオロギーをめぐる対立だった。ソ連が崩壊して冷戦が終わってから、イデオロギーの害悪について盛んに語られるようになった。
いま起きている戦争がアイデンティティの対立によるものなら、争いが終わった後にアイデンティティの害悪が語られるようになるの?そんなことになったら、誰も自分がだれかわからなくなってしまうので、そんなことにはならないはず。でも、一瞬だけそんなことも起きてしまうのかもと思った。
ロシア・ウクライナ戦争以前は軍事力が存在しなければ戦争も起きないと夢想していた。もうそんな夢は見られない。日本にも防衛力が必要だ。最低限、中国共産党が台湾有事をためらう程度の防衛力が。
高橋杉雄がロシア・ウクライナ戦争について、さまざまな媒体で非常に理解しやすく解説しているのを見て、著書も読むようになったけれど、文章でもやはり理解しやすい。 -
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普段そこまで安全保障に関心を持たない人も持っている人にも、とにかくわかりやすくしかも意外と知らない事実を教えてくれる。
まず日本の安全保障環境の悪化について、核保有国が多数存在することやミサイル密度の高さ、防衛予算のシェアの変化を具体例として説明。忘れる人も多いが日本は米中対立の傍観者ではなく当事者でしかもアメリカを当事者の一部にしたのは日本の外交努力であったこと。北朝鮮の核開発が外交カードではなく最初から核兵器保有を目的としていたこと。アジアのハブ&スポークが、利害の対立で動けなくなるようなことなく対応をファインチューニングできること。グレーゾーンの既成事実化やプロービング、コントロールされたプレッシャーといった抑止の難しさ。台湾有事が米中両国にとって負けられない戦争になるから絶対に抑止しなければならないこと。防衛力整備の考え方として、予算倍増は装備の量を変えるのでなく、今までの装備を整備したり弾薬備蓄を増やすことが目的であることと、それはいままで継戦能力不足は織り込み済みで正面装備を整えてきたから。陸海空の装備や運用について。 -
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難しいことを分かりやすく
去年2月にロシアがウクライナへ侵攻してからこの春まで、毎日見ない日はないほどテレビを席巻していたスイーツ王子こと高橋杉雄氏が著した本。偶然にも同時期に同じテーマを扱った本を2冊出されたうちの1冊です。
一方は、いわゆる専門的でない一般の方にむけて、自衛隊と国防について平易な言葉でわかりやすく書かれた『日本人が知っておくべき自衛隊と国防のこと』(辰巳出版)。
そしてこちらの『軍事分析入門 日本で軍事を語るということ』では、まだまだ理解されず、忌避されがちな軍事を理解する必要性を、さらに深掘りして丁寧に解き明かしてくれています。
「ですます」調で優しい語り口の『知っておくべき~』に比べて、こちらの本は少し堅い「である」調。
軍事だけでなく、それを理解するための国際政治、経済、サイバーといった多岐にわたる情報をくまなく網羅し、左派マスコミや学術界によって長年、ある種のイメージ操作をされてきたカギカッコ付きの『軍事』『戦争』が、実は国民にとって知っておくべき、とても大切なことであると教えてくれています。
彼が出ていたYou Tube「国際政治ch」の2023年8月13日放送回「高橋杉雄さんからご報告」で、この2冊について20分程度の解説動画があります。ぜひご覧になって、直接先生の言葉を聴いて、本を手に取ってみてください。どちらも買いたくなってしまうこと請け合いの良書です。 -
Posted by ブクログ
著者はウクライナ戦争開始時に何度もテレビ等で解説していたので存じている方も多いと思います
あくまで個人の立場で論評しています
現在日本の高校はもとより一般の大学でも軍事、防衛面について講座を持っているのは防衛大以外無いでしょう
この本を読み、ウクライナ、台湾、尖閣、北朝鮮情勢を考えると一般大学でも教養課程で教えてしかるべきと思います
戦後日本はアメリカを中心とする諸外国に軍事防衛面で一般人が学習することを骨抜きにされた気がします
軍事的なことを友人とさえ語るのがタブー視されてきました
基礎的な面だけでも理解しておかないと世論がおかしな方向へ進んでしまいます
その面で「日本で軍事を語るということ」の表題も的を得ています
現在の日本の国力からしてアメリカ追従にならざるを得ないことは理解していますがいつまでもこのままでは世界から見て「日本はアメリカの属国」という印象を拭いきれません
独立した国として、他国と対等に意見を戦わすためにもこの軍事防衛面で鎖を打つことが必要です -
Posted by ブクログ
第1章:
クリミア半島とル人共、ド人共を分離してしまったばかりに、ウクライナ国内に親露派のお橋頭堡がなくなり、ウクライナがロシアとの対決に世論が集約されたのは、皮肉である。
第2章:
残念ながら本章で取り上げる八つの知見を台湾海峡有事の事例に適用してみると、台湾海峡においても今後、抑止が破綻する可能性は高いと言わざるを得ない。
第3章:
初の商業宇宙戦争。(ニュースペース)
双方が宇宙資産を利用する初の戦争
第4章:
ウクライナ戦争におけるロシア軍のハイブリッド戦争の具体例と、ウクライナの新領域戦争
第5章:
アイデンティティ戦争において、「落としどころ」はない。(これは中国の台湾侵攻にも言える)
終章:
戦争を終わらせることは、戦争を始めることよりもはるかに難しい。まして、アイデンティティ戦争に置いては落としどころはない。→中国に台湾侵攻を起こさせないことが重要であり、そのための戦略三文書の改定と防衛費の倍増は必要な平和のコスト