海外に行く時、普通に観光だったらトラブルでも起きない限りまず訪問しない大使館。そこで一番偉い「大使」って何をやってるのか、というのを、自身の実体験をもとに紹介しているのが本書。
ただ、タイトル通り著者は元商社マンで、40年近くビジネスの最前線で仕事をしていた人なので、そんじょそこらの大使とは仕事へのアプローチも取り組み方もちょっと違う。その点で、「大使のお仕事紹介」のみならず、「ビジネスマンの視点から見た大使の仕事と、ビジネス界と省庁の感性の違い」について書かれている、としたほうがより正確。
第一章は大使に選任されてから派遣されるまでの話。第二章は渡航から着任までと、着任後のちょっとしたエピソード。第三章はビジネス界の常識と「お役所仕事」の違いのあれこれ。第四章から終章の第十二章までは、イベントや会食、開発協力、産業振興、パブリックディプロマシーなど、いわゆる「大使のお仕事」が個別に章を立てて紹介されている。どの章も実体験をベースに客観的に書かれていて、時折、著者個人の見解や戦略についても触れられている。
この本が出たのが22年12月で、著者が離任したのが20年11月。離任から間もない(とは言っても刊行までに2年は空いているのだが)このタイミングで、これだけの情報量のある文庫を読めたのは個人的にはよかった。エルサルバドルには仕事でも生活でも縁はないが、著者が在任時に直面していた課題やトラブルが今、どうなっているのかを調べてみたい、と思われる充実の内容。
著者の離任までの半年ちょっとがコロナ拡大と重なり、本来、この人がやりたいと思っていたこと、実際に全力を出せばやれていたはずのことができないまま、エルサルバドルを去ることになってしまったことは、読んでいる側としても勿体ないと感じるし、何よりも著者自身が誰よりも残念に思っているのだろう。