中国を始めとする新勢力の台頭やブレグジットなどの情勢変化に伴い、欧州の破綻、EUの崩壊と衰退といった考え方がニュースやシンクタンクの政策分析に登場してきているが、世界におけるEUの影響力は決して落ちていない、それが本書の主張であり、それを ”ブリュッセル効果”を分析することによって明らかにしようと
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ブリュッセル効果とは、グローバルな市場を規制するEUの一方的な能力を指し、市場がEUの規制をEU域外の市場参加者と規制者双方に波及させている現象と捉える。そして、ブリュッセル効果が生じるためには、①市場規模、②規制能力、③厳格な基準、④非弾力的対象(ある特定の規制体制に拘束される製品あるいは製造者)、⑤不可分性(企業のグローバルな事業展開を管理するための統一基準を適用する行為)の5つの要素が必要であるとする。
第Ⅰ部で理論的基礎が論じられた上で、第Ⅱ部において4つの具体的な規制政策分野における証拠が示される。すなわち、競争法の分野(合併審査、カルテル行為、支配的地位の濫用)、デジタル経済(データ保護~GDPR、オンライン上のヘイトスピーチ)、消費者の健康と安全(食品安全性、化学物質の安全)、及び環境(有害物質と電子機器廃棄物の規制、動物福祉の保護、排出量取引による気候変動の緩和)である。
これらを踏まえ、第Ⅲ部の第8章では、ブリュッセル効果が人々の厚生を増進する上で有益化どうかが問われる。EU規制がグローバルに及ぶことはコスト増を招きイノベーションを妨げるおそれがある、あるいは規制帝国主義の現れであって、域外の権力により自国経済に関して重大な決定が行われてしまい、政治的自律性が失われるおそれがあるといった経済的、政治的批判がなされており、そのような批判についてどのように考えるかが扱われる。そして最終章の第9章では、結びとしてEUの規制パワーの将来予測が示される。
400頁の大冊であり、かなり専門的事項についての記述も多いので決して楽に読めるものではないが、第Ⅱ部の実際例の記述は、正に現在進行形で日本にとっても大きく影響するものであって、ビジネスの観点からも大変勉強になる。また、「規制」に関しての、EUとアメリカの基本的な考え方やイデオロギーの違い、多国間協力がますます困難になる中で、トランプ政権時代に自国第一主義の政策を強めたアメリカに対し、逆説的にEUのブリュッセル効果の影響力が増す結果が生じることなど、いろいろと新しい知見を得ることができた。