起業家精神・イノベーションが専門のHBS現職教授の講義録をもとにしたアメリカベンチャーキャピタル史である。この業界に馴染みのない人には少し詳し過ぎて読み通すのは大変かもしれないが、全編を通してキャピタリストや著名企業の生成経緯が詳細に語られ、説明が丁寧であたかも実際に教室で講義を受けている時の教科書のような懐かしさが漂う、翻訳が滑らかである。歴史を辿った多角的で深い分析は的確であり、VC業の本質を理解するためには出色な良書である。
通読して感じるのは、VCという業は本当に難しい業であるということ、奇跡的な成功が過度に語られブーム時には誤解する人が続出する、ファイナンスやテクノロジーの知識 実際のマネジメント ガバナンスの能力 そして人間性や人脈・閨閥等々すべてを駆使しても尚成功が覚束ない高度な匠の世界であり芸術のような生業であるということ、だからこそ政策や税制などの国家のサポートも必須で、このVC業の発展の歴史がアメリカの資本主義成長そのものであるという事、痛感する。
著者の所属するハーバート大学やスタンフォード大学等アカデミズムの存在と役割も日本では考えられないくらい大きい。
19世紀の米捕鯨業のVC業との同質性から始まる。
VCの父と言われるジョルジュ・ドリオのARDが1946年ボストンで産声を上げ、クローズド・エンド型ファンドでスタートアップ企業のロングテール投資の華々しい成功例をつくる、DECである。
場所は西海岸のパルアルトに移り、フェアチャイルド・セミコンダクター出の「8人の反逆者」を源流とする人脈とスタンフォード大学の技術や環境をベースにグレイロックやベンロックそしてクライナー・パーキンスやセコイアなどの今に至るレジェンドファームが続出してくる、それぞれが象徴的なサクセスを持って高いパーフォーマンスを実現している。コーポレートベンチャーの出現、バブルとバーストの繰り返し。LPSのVC業にとっての意義、LPとGPとの役割と権利・報酬など法的な整備。多様性の欠如‥‥。