逢縁奇演のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
本巻のあらすじを最初に読んだ時は「今度は仮面心葉が居た次元とはまた別の近似次元が舞台なのかな?」なんて考えたものだけど、実態はそれを遥かに超越する事態が展開されていたね!
心葉が恋兎に告白するというこれまでの経緯を知っている者からすると信じられない描写から始まった今巻は改めて心葉がどうして戦い続けるのかを示すものとなったような
今巻の前半は二つの物語が同時進行していたね
書架曼荼羅を訪れた心葉一行の物語と平和な真鶴で双子の妹と日々を謳歌する心葉達の物語。両者は同時進行的に描かれたから、全く別の場所の物語なのだろうと最初は思ったのだけど、真鶴に居る心葉が記憶を取り戻してからの展開は驚愕の連続
それによって見えてくる物語構造には恐ろしさを抱いてしまったよ……
後に『残響の残骸』が語るように、あの真鶴は心葉が願って止まない場所の具現であり、平和なんて全く手に入らなかった心葉が最も手にしたかったそのものなんだよね…
あれがシミュレーション世界であるならば留まるなんて間違っていると言える余地は増えるけど、実態は『残響の残骸』が作ったもう一つの宇宙であり怪異の王が言及するように今は不安定な部分があってもいずれは恒常性が落ち着いて何の問題もない世界に変わっていく筈
その意味でも心葉があの世界に留まる事って問題は無いんだよね
だから安寧を享受した心葉がそれでも元の世界へと戻る理由があるとするならば、それこそ戦う為で。その際にはどうして戦いたいのか?何故戦わなければならないのか?という点こそ問われてくる
この答えは書き下ろしショートの中で示されていたね。最初は「普通」をこそ願っていた彼は手に入りそうな幸せや守れそうな笑顔を守る為に頑張り続けた結果、いつの間にか多くを抱えるようになった。それこそが心葉を「戦う人間」へと変えていたのだろうね
だから『残響の残骸』が最も望んだ在り方をしている世界であろうと、戦いからの逃げになってしまうならば心葉はそこに留まる自分を許せない。それはとても哀しくてとても強い在り方だろうな…
『残響の残骸』の真鶴は平和という点だけでなく、人間関係においても心葉に癒しと安寧を与えるものとなっているね
シャチイーターという普通から外れた同年代と仲良くしつつ、恋兎が主催するバンドで普通の青春を過ごしていたりもする。また特筆すべきはニャオとリンという妹達か。家族に恵まれなかった心葉にとって、彼を慕い適度に庇護できる対象の2人は良い意味で都合の良い存在
このように書くと心葉があの世界を捨てる理由なんて本当にこれっぽっちも無くて、あるとすれば元の世界から逃げたくない、元の世界で繋がりを手にした大切な皆と一緒に戦いたいという傲慢のような責任感だけ
それはやはり哀しいのだけど、彼の決意の尊さも感じられてしまうね…
それだけに『残響の残骸』から脱出した後にご褒美の如くリンやニャオとの関係が持ち越されたシーンには微笑ましいような温かいような感情を抱いてしまったよ
妹以上恋人未満な関係性になりそうなまるで安寧の残滓のよう。辛い戦いの日々から逃れられない心葉にとって一つの癒しとなるのではないかと思えたね
この巻ではサブ的な立ち位置となったLunaだけど、彼女が陰ながら齎した貢献、そして銃痕に籠められた願いの重さには瞠目させられましたよ……
前々から心葉に対して重さバリバリな発言を繰り返してきた彼女だけど、メンヘラ自称だったり場を明るくする為に敢えてそのような発言をしているのだろうと思える面もあった
けれど、心葉が『残響の残骸』へ突入する直前の遣り取り、彼女が授かった銃痕の能力が何よりも彼女の心を示すものだったよ…この人、めっちゃ本気じゃん…
だってあの能力って、使い方に拠っては死にそうな心葉を助ける為に使えそうなものなのに、現状の彼女が考えているのは心中なんだもんなぁ…。心葉が生きていない世界なんて意味が無いと魂から思っているんだ……
あと、驚きの邂逅を果たしながら記憶がない為に互いが探し人であると気付けない心葉とエリフの今後は気になるね。こうして出会えたのだから何か意味がある筈だと願ってしまうけれど、ニャオとリンの再会が『線の人』によって仕組まれた可能性がある以上、心葉とエリフの再会も『線の人』が関わっている可能性があるんだろうな…
そう思うと、2人がこうして傍に居る状態って実は良いものでは無いのかと不安になってしまうけれど…… -
Posted by ブクログ
『普通』に憧れる主人公タイプというものがライトノベルには多数存在するけど、それは自分が普通から外れているつもりとか平穏を望んでいるとかそういう理由によるものが多数。だけど本作の主人公はそれらとは一線を画するタイプだね
人の死に大小様々な程度に関わった自覚がある。両親の愛を受けて育てなかった。人とは異なる異能を持つ。身体には目を背けたくなる傷が刻まれている。
何処をどう取っても普通ではない。だから彼は普通を目指すのだろうね、普通の青春を
また、本作の世界もとんでもなく普通ではないね
終末により世界は滅びへ向かっている。通常の作品ならば敵等と戦う事により世界救済を目的としたっておかしくないだろうに、本作では世界の滅亡がもう確定しているから滅びへの時間を停滞させる事しかできない。
そんな世界では普通では無い事が幾らでも起きる。そこで終末停滞委員会は少しでも『普通』な世界を求めて戦うわけだ
いわば、心葉と終末停滞委員会の方向性は一致している
こういう構図だと心葉だけが目立つ作品になりかねない。けれど本作はここに心葉と同じように普通からかけ離れた人生を送ってきたLunaを投入する事で心葉という存在のバランスを取っているね
Lunaの来歴は終盤に明かされるが彼女も普通ではない。そしてどれだけ手を伸ばしても彼女はもう普通に手が届かない
その意味で彼女は既に普通を目指す事は諦めているのだろうけど、そんな彼女でも諦められないのが心葉のような希望へ手を伸ばす者を見捨てること。希望を諦めない心葉を助ける事を諦められない
そんな二人が物語の中心に居る事で徐々に形を失っていく世界に対するバランスも取れるわけだ
それにしても本作は凄まじいまでの設定量だね。近年稀に見ると言っても良いかもしれない
終末に天空都市に『三大学園』…、他にも挙げればキリがない設定の大群を展開しているのだから堪らない
更に各人物が使う能力がバラエティに富んだものになっているのも良いね。特に小柴の標的と銃弾を入れ替える能力なんて戦闘でどう使うのかと疑問だったけど、事前の仕込みようによって彼女はとんでもなく恐ろしい存在に成り得るね
他にも常識外れな能力者ばかりで、ここまで来ると心葉の能力が控え目に思えてしまうほど
けれど、そんな彼の能力とていずれは万の人間を殺すと予言されているのだから、この作品の奥深さには驚かされる
そのような深みと崩壊しかけた世界によって立脚した作品であるだけに起きる事件の規模も凄い事になってるね
臓物マンション事件の第一印象はあまりのヤバさにこんなものが世界中に有るのかと瞠目させる程だったのに、後に登場した深海世界と比べるとジャブの様な事件だったのだと思い知らされる
というか、本当にあのような終末が平然と存在している世界は何故今すぐにでも崩壊しないんだ……
何もかもが滅茶苦茶な世界において、それでも心葉が魅力的な主人公として成立しているのは彼が何処までも普通や青春を追い求めているからだし、そんな彼を支えてくれる最高のヒロインが居るからだろうね
ライトノベルの主人公みたいに成りたいなんて、あの年代の少年なら有りがちかもしれないけど、彼の境遇を思えばそれさえもかなり背伸びした願いなのだと判る。また、当人すら本心では無理だし叶えてはいけないと自覚している
それでも諦めきれない願いを、同じくらいの絶望を抱えたLunaが傍で見守ってくれる。だから何処までも普通ではない二人の物語は動くのを止めない
でも、二人共強い人間ではないから、それぞれが勝手に動くだけでは最高の希望を叶えられない。だから心葉とLunaはパートナーになる必要があったわけだ
身に秘める感情が大き過ぎる二人が一心同体となり戦場を駆け巡り、世界を壊す終末に反撃をぶちかますクライマックスは最高ですよ!
こうして心葉とLunaは世界崩壊に抵抗する戦力へと育ったというのに、あの世界の何処かには世界を滅ぼそうとする規格外の黒の魔王もまだ控えているのだから恐ろしいね
何処まで抗っても限界バトルが続きそうな本作、これからの展開を楽しみに思えるとても良い第1巻でしたよ