アンドレイ・クルコフのレビュー一覧
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ネタバレ世界が震撼したウクライナへのロシアの侵攻。
その直前である2021年12月29日から、侵攻を挟んで、2022年7月11日までのウクライナ人の日記。
日記、とは言うものの、書いたのはウクライナの高名な作家でもあり、そこは私的なものばかりではなく、ウクライナという国の歴史、人種や言語や文化の解説、世界の動向、ロシアとの関係などなど、世界の読み手を意識して書かれたものでもあり、そういう意味からも、ウクライナという国と「今」を理解しやすい。
そもそも、今回の侵攻が起こるまで、ウクライナという国がどういう国なのか、どういう歴史を持ち、どんな人種であるのか、など、ほとんど知識はなかった。
ヨーロッパから -
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ネタバレウクライナ侵攻について特集した番組の中で本書と著者が紹介されているのを見て手に取り。
装丁は美しいですが手に取るのに覚悟のいる一冊でした。
簡単な地図がついてますがロシア・ウクライナの地理も歴史も文化も全く知らないので最初は中々とっつきづらかったのですが読み進むうちにウクライナ人の矜持のようなものをそこここに感じられるようになったと思います。
侵攻の残虐さや非道さは日本の報道でも(ものすごくきっと限定的でしょうが)見ることがありますが、そこに現実に生きている人の生活の様子(住居や故郷からの退去、食料や日用品の調達、医療に状況など)や思いはそこからはわからないです。そういうものの一部を本書によ -
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ネタバレ閉館した動物園から引き取ってきたペンギンのミーシャと二人で暮らすモノ書きのヴィクトル。著名人が亡くなった際に新聞に掲載する通称「十字架」を書く仕事を引き受けるが、出先の宿では銃声で目を覚ましたり、引き受けた子供の親からピストルを受け取ったり、常に陰鬱な緊張感が続くロシア文学らしいウクライナ文学。
ソ連崩壊後のウクライナの世相をよく表していると解説にもあったが、まさにそのとおりだと思う。ミーシャは動物園という囲いの中から出ても、自分の属していない土地に居るより他なかった。ウクライナもまた、ソ連崩壊後、世界の中で自分たちの居場所を見失っていた。
ヨーロッパ(特に冬の寒さが厳しい地域)の文学では孤独 -
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孤独なひとりの売れない小説家と一羽の憂鬱症のペンギンが巻き込まれていく、日常に混じりゆく不穏な気配とその真実を繊細かつユーモラスに描いた物語。ミステリ要素も含み、ペンギンはとてもかわいく、楽しく読めました。
豊かに風景を描き上げる繊細な文体でつづられるのは、危うい社会情勢。地雷が埋められて爆発した死体がそばにあろうと、マフィアのもめ事に巻き込まれて人が次々といなくなっても、日常はバランスを危うく揺るがせながらもつづいていく。別荘を持つ夢を見て、ペンギンと寄り添う暖かさに心を和ませる。ずいぶん前に描かれた物語ですが、小説全体に漂っている漠然とした仄暗さは2023年現在の社会情勢を考えると安定し -
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[残す本]
春先に書店でカバーに惹かれて買った本。
会社を辞めてしまう同僚に最後に会った時におすすめの本として紹介したら、ウクライナの作家さんだよね、と言われて、書店に並んでいた理由を知った。
これから亡くなりそうな著名人、通称「十字架」を見つけては、追悼記事を書くという仕事を任された売れない小説家ヴィクトルと、一緒に暮らす憂鬱症のペンギン。
全編、寒い国で薄青い空気の中、静かに大きな物事が淡々と進行していく。皮肉の効いたラストは、救いにも、絶望にもとれる。
渋谷の地下のマックで読んだ時、あんなにも人がいる街なのにそこだけは全然人がいなくて、緑っぽいネオンの中1人だけになった感覚が -
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売れない短編作家と、憂鬱症のペンギンの話。
最近急に寒くなってきたけど、ひんやりした空気の中で読むに相応しい小説だった。
ウクライナ人の作家の作品だけど、ロシア語で書いているのが原因か祖国ではあまり読まれず、むしろ翻訳されたものがヨーロッパでよく読まれているっていうのが小説にも何となく微妙に曇りっぽい印象を与えている気がする。
売れない短編作家にたまたま舞い込んできのは、新聞に掲載する追悼文をその人が生きている間に書く仕事だった。
生前の悪に、多少なり哲学的意味を与える文章は短編作家の才能を引き出してくれたけど、奇妙なことが次々に起こる。
クライマックスは憂鬱症のペンギンのために手配したあ -
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ウクライナに住む作家が書いた、2013年11月21日から2014年4月24日までの日記。
ウクライナの首都はキエフ。(バレエで有名ですね)
チェルノブイリとか、クリミア半島とか、そのくらいしか知りません。
ヤルタ会談の行われたヤルタも、クリミア半島にある地名です。
元々ウクライナはキエフを中心として繁栄した国でしたが、13世紀にモンゴル帝国に侵略され、17世紀に入って東部は帝政ロシアに吸収され、西部はポーランドに支配されるようになりました。
ロシア革命を機に、ウクライナでも独立運動が高まりましたが、ソビエト連邦に組み込まれてしまいます。
その際に多くのロシア人が東部ウクライナに移ってきて -
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ソ連の名残がまだ残る1990年代中盤のウクライナで、ペンギンと住む売れない作家が不穏な事件に巻き込まれていく物語。
主人公にぶっ飛んだところがあるせいで、感情移入が全くできなかった一方で、主人公が預かった少女のソーニャとペンギンのミーシャには情が移り、無事を確かめたい一心で最後まで読み進めた。色彩の少ない陰鬱な雰囲気や、主人公のシニカルな語り口とは対比的に、ペンギンの可愛さが際立っており、独特の世界観に仕上がっていた。個人的には、ストーリーそのものよりも、あまり味わったことのない空気感を楽しめたと思う。
本筋とは離れるが、ソ連崩壊直後に書かれている為、本レビューを書いている2025年8月の -
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ネタバレ権力者は歴史を仕立て上げる。それに対して私的な日記は真実をとどめうる。ウクライナ侵攻の2ヶ月前から、侵攻後5ヶ月の記録。侵攻直後の混乱と緊迫感から、少しずつ緊張が緩んでいって戦争に慣れていき、キーウに戻る人も増えていくウクライナの様子が内側から描かれている。
ロシア語話者であった著者クルコフは、ロシア語が支配の言葉でないことを示すために小説はロシア語で書くスタンスをとっていたが、侵略以降はウクライナ語をメイン言語にせざるを得なかった。ロシア語話者は普通の4倍の愛国心を見せないとウクライナでは認められない。ロシア文化やロシア語を敵のものとして排斥する動きはウクライナだけでなくて、残念ながら日本に -
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2014に起きたマイダン革命からの日常を描いたものになっています。
今のウクライナ戦争のきっかけにもなった出来事です。
正直、よんで一部しっくりこないことが多い(おそらくウクライナの文化的や政治背景を知らないかもしれませんが…)
市民の視点でえがいているので、心情などの描写など独特なものでした。
さらに正直、一番驚いたのはロシアがクリミア併合認めるためには内戦を引き起こすしかないと述べているところです。
これはまさしくその後のドンバス戦争、そして2022年のウクライナ戦争につながるんだなと実感しました。
まだまだウクライナなことは勉強不足ですが、引き続き他のウクライナの本を読んでみようと思いま -
Posted by ブクログ
2022年2月に読み始めたのは、同年2月24日に勃発したロシアによるウクライナ侵攻が理由だが、紛争ははるか8年前から続いているわけである。本書はアンドレイ・クルコフによる日記形式のノンフィクション。2014年のクリミア併合の前後におけるウクライナの情勢を、小説家の目線で伝える。
ひとつの国の歴史を理解するためには、新書あるいは歴史書を読むことが近道であるが、私は別の方法を選ぶ。その国を代表する小説や、著名な小説家によるルポルタージュを読む方法だ。
特に小説を読むことを選んだ場合には、新書などとくらべて数倍の時間を要するため、時間当たり生産性の面では劣る。それでも生産性で劣る方法を選ぶ理由は