朴舜起のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『ナイン・ストーリーズ』の巻頭を飾る短篇「バナナフィッシュにうってつけの日」は、『ライ麦畑でつかまえて』についで有名なサリンジャー作品だろう。そのラストシーンは主人公の謎めいた死で終わる。これは普通、自殺と解釈される。だが、もし自殺ではなかったとしたら?
たしかに注意深く読んでみると、途中から一人称が固有名詞ではなくなり、若い男(野崎訳では「青年」)となっている。もしサリンジャーが意図的にそのように書いたのだとすれば、死んだのは誰なのか。自殺ではなく他殺なのか。だとすれば、誰が誰を殺したのか。ここから著者の壮大な旅が始まる。
本書はあまり一般向けとは言いがたい。本というより論文である。主題そのものは「バナナフィッシュ」だが、その解読にあたっては、サリンジャーのほぼ全作品を射程としている。私も読んだことのない、あまり馴染みのないものも含まれる。しかし、それなら読みづらいかというと、そうではない。
正直に吐露すると、私は本書の主張がどこまで妥当か、明確には判断できない。同意できる部分もありつつ、少々穿ち過ぎではないかと思うところもある。もし穿ち過ぎでないとすれば、それは作者サリンジャーが入念に、とても用意周到に、そうとしか読めないように、単語をひとつひとつ選んで書いていることになる。サリンジャーはたしかにそういう作家だが、それにしてもこの「事件」は証拠がとにかく多すぎる。
かつて柳瀬尚紀氏が『ユリシーズ』における自身の見解をジョイスの遺族に手紙で送ったところ、一笑に付されたという。本書の主張を世界中のサリンジャーの読者、研究者はどのように受け止めるだろうか。頭がおかしいと思うだろうか。私にはわからない。頭がおかしいのは一体誰なのか。