ちょっと長い前振りになるが、中学生の頃に大塚博堂が「ダスティン・ホフマンになれなかったよ」(1976年発表)という曲を歌っていたのを思い出した。歌はテレビで「ジョンとメリー」(ダスティン・ホフマンとミア・ファロー主演)をやっていたのを見た、と始まるのだが、なれなかった、と回顧しているのはそちらの映画ではなく二番の歌詞に出て来る「卒業」の方だ。余りにも有名な教会から花嫁をさらっていくラストシーンに自分の過去を重ねて、ダスティン・ホフマンみたいに君を奪いさればよかったのにと後悔している男の歌だ。卒業は1978年のテレビ初放映なので、まだテレビで見たよとは言えなかったことになるのだが、歌の主人公はかつての恋人と映画館に観に行ったことがあるという設定になっている。日本での公開は1968年。歌は1976年なので8年程が過ぎた計算だが、かつての恋人には既に子供が二人いるということ知って落ち込んでいるのだ(計算は一応合う)。しかし、ご存じの通りラストシーンで流れるのはサイモンとガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」。二人の未来は明るいと決して予感させてくれる曲ではない(何しろ、Hello darkness, my old friend と始まるのだから)。実際、満面の笑みでバスに乗り込んできた二人は最後尾の座席に着く頃には周囲の人々の奇異の目に押し潰される様にして(何しろエレーン(キャサリン・ロス)はまだ花嫁衣裳のままなのだ)押し黙り、やがて互いに目を逸らすようにして真顔になったところで映画は終わる。これは何かあるなと誰でも思う筈だ(えっ、思わない?)。