サイエンスとエンジニアリングの交差点から始まったイノベーションは、いつしかその力点をビジネスへと転換していったーーそんなコンピューティングの歴史を、冷静かつフラットな視点で綴った名著。
本文356ページの中で、初めて「コンパイラ」そして「FORTRAN」が登場したのは194ページ目。現代のソフトウ
...続きを読むェアエンジニアに馴染みのあるコンパイラ、そして現代から見ると「そんな言語あったんですね」とすら言われるFORTRANでさえ中盤移行の登場である、という事実からも本書の(意味的な)分厚さがわかるだろう。
バベッジ、エイダ、チューリング、ノイマン、エンゲルバート、アラン=ケイ…コンピューティングの歴史を綴った類書に顔を出す傑物は、もちろん漏らさず登場してくる。
網羅的に歴史をたどるという性質上、この分野についてある程度詳しい人間であれば既知の内容が多くなってしまうのは宿命的なものだ。
しかしそれでも、本書は一読の価値がある。
イノベーションにフォーカスしたある種のヒロイズムではなく、本当に淡々と歴史を綴っているという点。その特色ゆえ、イノベーターの席に並べられることはなかったけれども確かにコンピューティングの歴史の1ページであったスタートアップの動きなどが描かれているのだ。
成功談だけではなく、失敗談も多く書かれている。(いや、もしかしたら失敗談のほうが多いのかもしれない)
加速度的に進化するコンピューティング、呼応するように変化する市井の生活…この目まぐるしい奔流を原点から辿る旅に出る、格好のガイドブックだ。