香川知晶のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
透析患者のトリアージに始まり、代理母や終末医療・尊厳死、臓器移植まで幅広いトピックを取り上げ、過去から現在までの議論を整理した生命倫理の導入書。
歳を重ねることで身近になった事象や、コロナ禍での直面した事象はあったものの、体系立てて目線を当てたことがないことが気にかかっていたため手に取った。
これらの生命倫理の裏には常に「経済性」がなりを潜めており、表面上は倫理のことを議論しているように見えても、実態は「経済性」のゴールありきのロジックを積み立ているということが多々ある。
特に臓器移植時の「死」の判定において、移植臓器の圧倒的不足に対するカバー策として「脳死」という概念を掲げ、コンセンサスを取ろうとしてきた経緯が分かりやすい。
技術が発達するにつれて既存の倫理に当てはまらなくなるだけではなく、細分化が進むため各論に対して人類全体としてのコンセンサスを形成するのが難しくなっていく。各論に執着せず、大局として「善い」姿を模索し、示していく必要があるだろう。
著者は自分の倫理観を推すことはなく、歴史と視点を解説することに終始しているため、多角的な視点を得るにあたり大いに役に立った。
初版は2009年だが、2021年に増補版として近々のトピックをまで網羅されたのがありがたい。
おすすめの本です。 -
Posted by ブクログ
人が生まれたり、死んだりすることは、かつてコントロールできるものではなかった。
しかしながら、現代では、生まれることも、死ぬことも、技術の進歩によってできるようになる時代となった。だが、新たなる問題として、誰を生かすべきかという優先順位の問題がでてきた。
誰もが平等であり、生きることの優先順位があってはならない。これは正しいことだ。だが、命を救うためのICUや透析機などの機械は限られている。そうした環境下では、優先順位の問題は避けられないのだ。
確かに、この問題を考えるべきは、専門職である医者であり、私たちが考えるには、知らないことだらけだ。
そうして考えたところで、当たり障りのない意見や、筋違いな結論が出てしまうかもしれない。
そういった意味で、ではどのような考え方があるかの手がかりがこの本には収められている。
この本の良いところは、各章の表題が、非常に身近な問題である点にあると思う。例えば、第二章「あなたは、パンデミックの状況では患者に優先順位をつけてもやむをえないと思いますか?」などだ。
この章では、トリアージの問題が取り上げられている。
コロナ禍で、トリアージと言う言葉はかなり浸透してきてはいるがそれでもまだ知らない事は多い。
そこでトリアージとは何かと言う説明からはじまり、トリアージをすることで、患者の優先順位が決まるのはある程度仕方がない、とするのではなく、『一定の基準で命を選別しようとする事は…否定されるべき差別である』(P59)と述べる著者の言葉は、重い。
考えるためのヒントが散りばめられているため、ではどうするべきかの答えが書いていないのは、不十分と捉えられるかもしれないが、私のように、結論に飛びつくような人間にとっては、何が問題点かを洗い出し、そこから自分で考えましょう、とするこの本は、素晴らしいと感じた。
「よりよい解決案」は、状況で大きく変わることがある。問題点と選択肢を増やすという意味でこの本は、自分にとって良いものとなった。