宇野和美のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『ある町にどこからか現れた、理解不能な言葉を話す子どもたち。奇妙な子どもたちは、盗み、襲い、そして32人が、一斉に死んだ。』
本書の帯に書かれたこの短い文章が、物語で起きる全てのことを端的に表し、事件の渦中にあった1人の人物が22年後に述懐していく構成となっています。
うつくしい亜熱帯の国の景色と貧困問題を抱えるサンクリストバルは、架空の都市でありながら私たちの世界にも必ず存在する場所です。つまり存在しない物語でありながら、32人の子供たちを産む土壌はこの世界に存在するのです。現代への予言とも呼べるかもしれません。
サンクリストバルの貧困は日本の中の貧困とは性質がまったく異なります。最初に出 -
Posted by ブクログ
少年たちが用水路で「魔女」と呼ばれている人物の腐乱死体を発見するところから物語が始まるので、この「魔女」の人生が語られるのかと思ったらそうではなかった。
簡単に言えば殺人までの過程を様々な人物の目からたどる小説。
ジェンダーや性的少数者への差別、貧困、虐待、薬物依存などが当たり前の貧しい村で、それぞれの人物が何を感じ、どう生きているのか。そこには選択肢なんて初めからない。学校もろくに行かないし、幼いうちから性的な話題や行為に晒されていて、自分が虐待されていることすら気づかない。
はっきりとは語られないが、人種も多様で、その中での差別もある。
物語の構成、語り口が素晴らしく、実に才能のある作家だ -
Posted by ブクログ
ストーリーは、妻とその連れ子と南米の(架空の)町に移住してきた主人公が、20年以上前に自分が職員として関わったショッキングな事件を回顧録という形で振り返っている。
舞台となる鬱蒼としたジャングルや灼熱の埃っぽい町は、この事件が決して起こり得ない話ではないことを暗示していたのに、主人公や大人達が何を見落とし、何を軽視し、今でも罪悪感に燻られているのは何故か。
タイトルの “きらめく” というのは本文特有の抽象的・文学的な表現かと思いきや、とても物理的なものであり、そのシーンと直後に起こることの描写は映画的でもあります。
カズオイシグロさんに通じるような、重過ぎないテーマなのに逆にファンタジ -
Posted by ブクログ
パステルカラーを使った柔らかで輝くような装丁に、美しいタイトル。
しかし、始まりはこうだ。
「サンクリストルバルで命を落とした三十二人の子どもたち」(5頁)
不穏な文章、そして不吉な予兆。
喜びとは、若さとは、死とは。
胸に残るのは、
「心の奥のもっとも密やかな場所には、それに抵抗しようとする空間がある。私たちが口に出せなかったこと、手渡せなかったものを凝縮した身振りや微細なサインがしまいこまれた空間が。」(170頁)
この一文が物語を総括する。
なぜ32人も子どもたちは死んでしまったのか。
彼らが話す謎の言葉、リーダーがいないのにまとまっている彼らの世界。
大人からは見えない何か。
一回