W・G・ゼーバルトのレビュー一覧

  • 土星の環:イギリス行脚

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    サフォーク州を徒歩で横断した「わたし」は、旅の果てに力尽きて入院する。ノーフォーク州ノリッジにあるその病院は、トマス・ブラウンの頭蓋骨が眠るとされている場所だった。旅の記憶と本の記憶が交じり合い、連想が連想を呼ぶメランコリックな旅行記小説。


    旅の話とブッキッシュな歴史の話がシームレスに繋がれ、脱線に次ぐ脱線をくり返していく。特に6章の橋→竜(ボルヘス『幻獣辞典』)→西太后へとモチーフをするする転換させ、あたかも居合わせたかのように西太后の生涯を語ってみせるくだりは、既読のゼーバルト作品からは感じたことのない陽気さがあって新鮮だった。大英帝国の罪を告発するコンラッドとケイスメントの伝記なども

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    2023年04月26日
  • アウステルリッツ

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    ①文体★★★★★
    ②読後余韻★★★★★

     アウステルリッツというタイトルは三帝会戦を思わせますが、登場人物の名前です。アウステルリッツは建築史の研究者として、駅舎や裁判所、要塞都市、病院や監獄などに興味をひかれ、文献をあたり、また実際にその場を訪れ記録をする人物です。語り手である「私」は、そんな彼と出会い、彼の聞き手として、文章を綴ります。
     アウステルリッツはおのれの出自をたどろうと、ヨーロッパの諸都市を旅します。それはユダヤ人として迫害を受けた両親をたどるまでにつながり、暴力、そして権力による歴史を目の当たりにすることになります。
     彼が訪れた様々な建築物、聴こえない声に耳をすませるアウ

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    2022年10月29日
  • アウステルリッツ

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    ネタバレ

    私(語り手)はアントワープの中央駅待合室で建築家のアウステルリッツにふと声をかける。彼は駅の歴史から始まってつらつらと様々な建築の歴史を、果ては自分の生い立ち、イギリスでの学校での出来事、蘇った記憶、ユダヤ人としての出自、両親との別離と捜索、人との出会いと別れを、私(語り手)に会うたびにとめどなく語っていく。

    アウステルリッツの語りはあちらこちらへと移り、思考は分岐する河のように流れ、イラストではなく写真が載せられていることもあり、実在人物から話を聞いているように読みました。

    意外な写真の効果を再認識しました。真実と思わせる力。いやーすごい。

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    2021年06月10日
  • 土星の環:イギリス行脚

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    イングランド ノーフォーク州を徒歩にて旅する。その風景の寂れた、枯れた姿にかっての栄華が立ち現れる。いく先々の土地から飛躍する思いの数々に読む方は目眩を起こしそうだ。列車から中国の太平天国の乱へ、コンラッドからコンゴへの、オーフォードの政府の研究施設のくだり、零落した貴族の跡地や侘しい宿泊施設。ゼーバルトの筆の進むままに、時代や場所が入り乱れ、あたかも迷路のように彷徨って、読み終わった今もそこから抜け出せないような感じだ。

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    2021年05月25日
  • アウステルリッツ

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    もっとも感動的だった表紙の写真が出てくる場面では、名前、故郷、言語を失ったアウステルリッツが自身の確実な過去、存在していた証拠をはじめて目にするのだが、彼はいっそう存在の不安に脅かされていた。ラストには過去が鉱坑の奈落に例えられるように、アウステルリッツにとっての果てしない旅、父親を探しに出る際に「そうしたことがなにを意味するのかわからない」と言うように、幻想とも言える過去への旅を続ける彼にとって、確実な過去は奈落の底のようなものなのでは。

    文章から受け取るのはまさに「過去」のイメージで、この感覚はモノクロの暗くて静かな写真→自身の過去にまで波及していくようで、アウステルリッツの過去(鉱坑の

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    2025年06月05日
  • 移民たち:四つの長い物語

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    たくさんの言葉で語られようとするある人物。彼らはみな、遠くからきて、ある日死を選ぶ。
    こんなふうに書くと興味深いミステリー感が漂うけれど、この本が魅力をぐっと増すのは謎に分け入って考えるのは読者自身ということ。

    たくさんのエピソードが次から次へと、まさに記憶の断片が移り変わり結びついていく。合間合間に示される写真は妙に懐かしくてじっとみていたくなるけれど、その写真すら真実とは限らなくてどんどん不思議な記憶に分け入っていく新しい感覚の読書でした

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    2020年07月26日
  • 移民たち:四つの長い物語

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    長短とり混ぜた四つの物語.生まれた国を出て知らない国を知った国にして生涯を終える移民の心情に寄り添って,手記やら新聞やら伝聞やら本人から聞いた断片など,細部にこだわったり突然違った話に変わったり,まるで不確かな記憶がさまようように物語られる.あちこちにあたかも事実のように散りばめられた写真たち,現実にある場所と語られる内容の乖離,あったことが本当かどうかは読むうちにどうでもよくなり,ただ,移民たちの還るところを求めて彷徨っているかのような姿が印象に残った.

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    2020年07月23日
  • アウステルリッツ

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    《私》に向かって語らえる建築史家アウステルリッツの言葉。
    文体の純度の高さ、その密度の高い言葉が語るヨーロッパ各地の建築や駅舎、要塞や収容所などの記録。それが建築史、ヨーロッパの歴史にまで広がる試みはフィクションでありながら、全てがフィクションとも言い切れない不思議な感覚を覚えた。

    だが、どうしても地理的な知識が薄いからなのだろうか、どうしても語られる言葉が滑り落ちていくような感覚を所々で感じてしまった。
    好みのタイプの作品だろうと感じて手に取ったが、これはちょっと合わなかったんだろうな。
    もしくは今の自分には合わなかっただけか。
    いずれまた読み直したい作品。

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    2025年02月28日