【感想・ネタバレ】アウステルリッツのレビュー

あらすじ

ウェールズの建築史家アウステルリッツは、帝国主義の遺物である駅舎、裁判所、要塞、病院、監獄の建物に興味をひかれ、ヨーロッパ諸都市を巡っている。そして、彼の話の聞き手であり、本書の語り手である〈私〉にむかって、博識を開陳する。それは近代における暴力と権力の歴史とも重なり合っていく。
歴史との対峙は、まぎれもなくアウステルリッツ自身の身にも起こっていた。彼は自分でもしかとわからない理由から、どこにいても、だれといても心の安らぎを得られなかった。彼も実は、戦禍により幼くして名前と故郷と言語を喪失した存在なのだ。自らの過去を探す旅を続けるアウステルリッツ。建物や風景を目にした瞬間に、フラッシュバックのようによみがえる、封印され、忘却された記憶……それは個人と歴史の深みへと降りていく旅だった……。
多くの写真を挿み、小説とも、エッセイとも、旅行記とも、回想録ともつかない、独自の世界が創造される。全米批評家協会賞、ハイネ賞、ブレーメン文学賞など多数受賞、「二十世紀が遺した最後の偉大な作家」による最高傑作。
多和田葉子氏の解説「異言語のメランコリー」を巻末に収録。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

①文体★★★★★
②読後余韻★★★★★

 アウステルリッツというタイトルは三帝会戦を思わせますが、登場人物の名前です。アウステルリッツは建築史の研究者として、駅舎や裁判所、要塞都市、病院や監獄などに興味をひかれ、文献をあたり、また実際にその場を訪れ記録をする人物です。語り手である「私」は、そんな彼と出会い、彼の聞き手として、文章を綴ります。
 アウステルリッツはおのれの出自をたどろうと、ヨーロッパの諸都市を旅します。それはユダヤ人として迫害を受けた両親をたどるまでにつながり、暴力、そして権力による歴史を目の当たりにすることになります。
 彼が訪れた様々な建築物、聴こえない声に耳をすませるアウステルリッツの博識から語られる歴史、そして彼自身の過去を支える文章は、抑制のある静謐なものです。それらの記憶が都市や建造物、廃墟に寄せられ、内部へと反響するかのように感じます。
 段落も章分けもない語り口。文章とあわせところどころ挟みこまれたモノクロの写真。膨大な知識と思索がぎっしり詰め込まれた密度の高い文章には「~とアウステルリッツは語った」というフレーズが不自然なまでに挿入され、読み手にあるひっかかりを与えながら過去から現在に私たち読者を引き戻します。
 いったいどこまでが本当のことで、どこからがフィクションか曖昧で、小説なのか、それとも散文としてとらえていいのかよくわかりません。そしていったいなんのことであるのであろうか、と思わせるほど、読んだ片端から文字が流水で洗われるかのようにかき消えていく感覚にもなります。それがこの本を幾度も手にする理由になっています。

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2022年10月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

私(語り手)はアントワープの中央駅待合室で建築家のアウステルリッツにふと声をかける。彼は駅の歴史から始まってつらつらと様々な建築の歴史を、果ては自分の生い立ち、イギリスでの学校での出来事、蘇った記憶、ユダヤ人としての出自、両親との別離と捜索、人との出会いと別れを、私(語り手)に会うたびにとめどなく語っていく。

アウステルリッツの語りはあちらこちらへと移り、思考は分岐する河のように流れ、イラストではなく写真が載せられていることもあり、実在人物から話を聞いているように読みました。

意外な写真の効果を再認識しました。真実と思わせる力。いやーすごい。

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2021年06月10日

Posted by ブクログ

もっとも感動的だった表紙の写真が出てくる場面では、名前、故郷、言語を失ったアウステルリッツが自身の確実な過去、存在していた証拠をはじめて目にするのだが、彼はいっそう存在の不安に脅かされていた。ラストには過去が鉱坑の奈落に例えられるように、アウステルリッツにとっての果てしない旅、父親を探しに出る際に「そうしたことがなにを意味するのかわからない」と言うように、幻想とも言える過去への旅を続ける彼にとって、確実な過去は奈落の底のようなものなのでは。

文章から受け取るのはまさに「過去」のイメージで、この感覚はモノクロの暗くて静かな写真→自身の過去にまで波及していくようで、アウステルリッツの過去(鉱坑の奈落に例えられるような)とは異なるにしても「過去」が持つ誘惑と寂しさには同じ感覚があるのではと思った。

挿まれる写真から呼び起こされる記憶は、過去の回想や旅行記的な事物への言及などに広がり、それらがとめどなく語られる形式は走馬灯のように読み手は眺めることしかできず、史的な重たさを持つようだった。

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2025年06月05日

Posted by ブクログ

《私》に向かって語らえる建築史家アウステルリッツの言葉。
文体の純度の高さ、その密度の高い言葉が語るヨーロッパ各地の建築や駅舎、要塞や収容所などの記録。それが建築史、ヨーロッパの歴史にまで広がる試みはフィクションでありながら、全てがフィクションとも言い切れない不思議な感覚を覚えた。

だが、どうしても地理的な知識が薄いからなのだろうか、どうしても語られる言葉が滑り落ちていくような感覚を所々で感じてしまった。
好みのタイプの作品だろうと感じて手に取ったが、これはちょっと合わなかったんだろうな。
もしくは今の自分には合わなかっただけか。
いずれまた読み直したい作品。

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2025年02月28日

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