酒匂真理子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
面白すぎる。素晴らしかったです。
そしてタイトル邦訳があまりにも美しい。
三代にわたるSF年代記。
核によって生殖能力を失い滅びゆく人類のうち、サムナー一族だけがクローン技術という慧眼によって生き延びます。
しかし、クローンたちは旧人類にはない共感能力を有しており、やがて旧人類を排除するようになりました。
クローンの中でも孤独を経験することで「私」を獲得した女性による第二部、谷で唯一クローンの兄弟を持たない少年による第三部。
共感能力に優れたクローンたちが、やがて創造性を失っていく展開に圧倒されました。
芸術とは、表現とは、共感によってのみ評価されるのでも理解されるのでもないんだと思います -
Posted by ブクログ
環境破壊により不妊が蔓延した人類は滅亡の危機に瀕していた。クローン技術に活路を見出すも、異変が起こり……。
都市は滅び、動物たちが姿を消し、氷河期が迫るという世界観。人類の存続のために生み出されたクローンの人間たちは強い共感力を持つが、同時に個として生きる力を失っていく。徐々にディストピア化していく世界の変遷が切ない。三部構成のそれぞれが異なる趣を持ち、味わい深いものがある。科学と文明がもたらすもの、人間と自然の調和というようなテーマ性。ラブストーリーを基調に三代に渡って展開する壮大な物語。手塚治虫を彷彿とさせると誰かが言っていたが、確かに。タイトルの名訳から受ける印象通りの傑作だった。 -
Posted by ブクログ
地球上のあらゆる生物が生殖機能を喪失しつつあることを知ったデイヴィッドは、クローン技術をつかい種の保存を画策する。仲間とともにシェナンドアの谷に研究所を創設し、研究に明け暮れる彼は、ついにクローン人間を誕生させる。クローン人間はオリジナルと寸分違わない容姿と申し分ない才能を発揮。研究所を発展させ、人類存続の要となるはずだった。だが、クローン人間はオリジナルとは相容れない存在であることを悟ったデイヴィッドは…
人類がクローンを生み出す一部、クローンだけの谷で異端児が生まれる二部、逼迫するクローンの谷とその行く末を描く三部構成で描かれる本書は、ヒューゴー、ローカス、ジュピター三賞を受賞したケイト -
Posted by ブクログ
「共感」と「自我」は相対するものなのか……。
1976年のSF小説
出だしは“ある田舎の集落”で育った少年の成長が描かれている。
でもその陰には伝染病、不妊、飢饉、戦争などで人類の終焉が忍び寄っている。
成長した少年とその一族は、人類維持のための医療・研究とともにひそかにクローン研究を始める。
生存率、生殖率が「劣化する」というクローン技術の研究は、当初人間(原種)が行っていたが、次第に「クローン」自身の手で行われることになる。
クローンには従来の人間とは別の特徴があった。
同じ元からクローン培養された子供たちは「兄弟」「姉妹」として、同じ外見のみならず互いに共感しあうことで精神の安定を図 -
Posted by ブクログ
この作品は1976年に書かれているが、この作品の中の世界では、放射能によって大気が汚染され、旱魃と洪水が起こり、飢饉と感染症がひろがり、地球上の生物が生殖機能を失っていく、とある。
今、この作品をSF小説、ファンタジー小説、と簡単に思えない複雑な心境だ。
ある谷に住む一族は研究所を作り、クローン技術によって人類を存続させようとする。
クローンを生み出すディヴィッドたち人類の章。
クローンたちがその独自の性質で作り出した世界の中で、自己を見つけ出し出産したモリーの章。
モリーの子として生まれ、クローン社会の中で孤独に生きるマークの章。
この中で特に、モリーの章は印象的だった。
クローンと人類 -
Posted by ブクログ
CL 2023.12.4-2023.12.6
三代にわたる年代記。
放射能によって絶滅の危機に瀕した人類はクローン人間を生み出し種の存続を図るが、クローンたちは旧人類を排除し始める。
やがてクローンだけの社会となり、そこでは「個人」はなく、強い共感性でまるで姉妹兄弟で一人の人間のようになっている。その中でモリーは「私」を発見しマークを出産する。クローンではなく。
そしてクローンではないマークが、衰退していくクローン社会に抗い、新たな人類社会を築こうとする。
個と共感。1976年の作品ながら全く古びることなく、現代にも通じる問題とも言える。
それにしても素晴らしい邦題。 -
Posted by ブクログ
人間がいた時代、その後のクローンの時代、またその後のクローンと有性生殖者たちの対立の時代。この三部構成はとても壮大かつ野心的な設定ではあるのですが、なぜか盛り上がりには欠ける作品。
もちろん、その盛り上がりのなさを、時代の推移を叙事詩のように描いていると捉えれば、それは本作の魅力となるのでしょう。しかし、そのドラマ性の無さにどうしても気持ちがついていかなかったというのが実情です。ただ、くり返すと、読む人が読めば、きっと面白いからこその復刊なのでしょう。
一つだけすごいと思えたのは、人間がいなくなるという、まさしくポストヒューマンな世界を幻視したことです。本書の発表が1970年代であったこと -
Posted by ブクログ
放射能汚染により、繁殖能力が低下した社会で存続するためのクローン技術を適応させた世界、という設定。ちょっと古い時代に書かれた話なんだろうな、というのは「放射能」という設定で思ったり。今のSFはコロナのような感染症拡大後とかになるのかなぁ。
設定されている土地がバージニアなのがなんか懐かしい。南北戦争ではあそこは南側だったし、ちょっと反体制なイメージがありましたよね、今はどうかわかりませんが。
というわけで単体繁殖の共同意識はわかる気がするんですが、同じ遺伝子構造でも年齢が違ったらその共有は無理そうな気がするんですがどうなんだろう。ま、クローン技術がまだそこまで追い付いていない現代での仮定の話 -
Posted by ブクログ
77年のヒューゴー賞受賞作だが、その前後はというと、
75年 ル=グウィン「所有せざる人々」
76年 ホールドマン「終わりなき戦い」
77年 本作
78年 ポール「ゲイトウェイ」
79年 マッキンタイア「夢の蛇」
80年 クラーク「楽園の泉」
81年 ヴィンジ「雪の女王」
82年 チェリイ「ダウンビロウ・ステーション」
83年 アシモフ「ファウンデーションの彼方へ」
84年 ブリン「スタータイド・ライジング」
と、ある種の政治的状況下にあった、といえなくもない。
まぁ、ファンダムのことも当時のアメリカ社会の空気感も判りはしないのだけど。
で、帯ではティプトリーやル=グウ