最終話の「三十歳」が強く印象に残る。必死に努力しているのに報われず、どうしようもなくなって最後にたどり着くネットワークビジネスの販売員という、過酷な仕事。そこでは人間性が奪われ、人間関係が壊れ、主人公は深い深い傷を負う。どうにかしてその状況を抜け出したものの、大きな罪悪感を抱えて生きる主人公が懐かしい「先輩」へ宛てた手紙で淡々と語る形式だが、その物語はとても胸を打つ強烈なものだった。
実際の社会問題を題材にして、短編小説として鮮やかに切り取り、しかもあの結末は…とあれこれ考えずにいられない深い余韻を残す、印象深い物語だった。