本書は、最も身近な政治の舞台である地方議会について、その制度的仕組みや仕事、なり手、選挙制度、お金などの現状を丁寧に描いた上で、議会改革について論じている。本書の特色の一つは、これまで人口規模の違いを考慮せず一括りにされてきた地方議会や地方議員について、大規模自治体のそれと小規模自治体のそれとを区別して論じているところである。
「第1章 強い首長、弱い議会」では、地方議会や地方議員をとりまく制度について説明を行っている。本章では、執政制度に注目し、日本の国レベルの議院内閣制とは異なり、地方レベルでは、住民が首長や議会の議員双方を個別に選出する「二元代表制」が採用されており、その制度の下、首長には強い権限が認められた一方、議会の有する権限は限定され、それが議会の存在感を低下させたことを指摘している。また、地方議員という職業が、「名誉職」と「専門職」の間に存在するようなものとして法律上位置づけられており、議員をサポートする体制も限られていることも明らかにしている。
「第2章 議員の仕事」では、各議員がどのような活動を行っているのかについて説明している。議会の1年間、そして議会での審議過程を確認し、議員質問の場が議員にとって非常に重要であることを指摘している。また、ある公明党の地方議員に対するインタビューに基づき、議会内外での議員活動についても紹介し、片手間ではこなせない「24時間365日議員」としての職務を解説している。
「第3章 議員の選挙―なり手と制度」では、地方議員になるのはどのような人なのか、それは議会過程にどのように影響しているのかについて検討している。地方議員のなり手や選挙制度について紹介し、高齢者と男性が過剰代表されていることを確認するとともに、選挙制度と都鄙の違いが議会の政党化に違いをもたらしていることを示している。そのうえで、政党化が進んでいる大規模自治体では、首長与党・野党の色分けがわかりやすくなるものの、首長与党が多数の場合に議会が「脇役」になりやすく、そうでない場合に「敵役」になりやすいことを確認している。逆に、政党化が進んでいない小規模自治体では、議会過程が有権者に見えにくくなることを指摘している。
「第4章 議員とお金」では、議員をとりまくお金の問題として、議員報酬、政務活動費、議員定数を取り上げている。それらは、各自治体の人口規模や財政状況に左右されることを示す一方、議会の役割を認識したうえで、それに見合うだけの議員定数・議員報酬・政務活動費を考える必要があることを指摘している。
「第5章 議会改革の行方」では、地方分権改革が自治体や地方議会に及ぼした影響について概観するとともに、「内からの」議会改革、すなわち、議会・議員自らが、情報公開の促進や住民との接点の重視など、総体として議会そのものの強化を目指す改革と、「外からの」議会改革、すなわち総務省内に設置されら研究会などで提唱されてきた、政党の重要性に着目して地方議員の選挙制度や執政制度を変革すべしという議会改革論の双方について検討し、これら「内からの」議会改革と「外からの」議会改革論が目指す方向性がずれていることを指摘している。そして、諸外国の地方議会制度について紹介し、これからの地方議会に必要なのは、多様な選択を可能とする制度設計であると論じている。
本書は、地方議会の全体像を、コンパクトかつわかりやすく、また中身濃く解説しており、地方議会の現状と課題を理解し、今後の在るべき方向性を考える上で必読の書といえる。
著者の主張する、地方議会について多様な選択を可能とする制度改革の必要性についても強く賛同するものである。