その一粒は、戦火を生き延びた「3本の原木」から始まった。世界を虜にした究極の胡椒、その真実。
「たかが胡椒、されど胡椒」――そんな言葉すら生ぬるい。
これまで何度か口にしていたはずの『クラタペッパー』が、まさかこれほどの執念と、気の遠くなるような手作業を経て届けられていたとは。本書を読み終えた今、キッチンにあるその一粒を見る目が、完全に変わってしまった。
物語の舞台は、内戦の傷跡が残るカンボジア。
かつて「世界一美味しい」と称えられながらも、戦争によって壊滅状態となった胡椒栽培。それを、一人の日本人・倉田浩伸さんが、奇跡的に生き残っていたわずか「3本の原木」から復興させたというのだから、震える。
特筆すべきは、その徹底した伝統農法へのこだわりだ。
驚いたのは、1房に約40粒ほど実る胡椒のうち、わずか1〜2粒しか採れないという「完熟胡椒(Ripe Pepper)」の存在。真っ赤に熟した粒だけを、一粒ずつ手作業で選別していくという。収穫までに4〜5年を費やし、気の遠くなるような手間暇をかけて生まれるその品質。20gで972円という価格は、世界最高級かもしれないが、その背景を知ればむしろ「安すぎる」とさえ感じてしまう。
2003年に世界初の胡椒専門店を立ち上げ、今やカンボジアを世界第6位の胡椒生産国へと押し上げた倉田さんの功績は、もはや一企業の成功物語を超えている。一人の情熱が、一つの国の文化を再生し、世界中のシェフを唸らせるブランドを築き上げたのだ。
本書を読むと、五感が激しく刺激される。
特に、収穫したての風味を封じ込めた「緑の生胡椒」の描写には、たまらず食欲をそそられた。ネットで取り寄せができると知り、気付けば検索窓を叩いている自分がいた。これまで当たり前のように振りかけていた胡椒が、実はこれほどまでに芳醇で、奥深い「命」の産物だったなんて。
食卓に並ぶものの背景を知ることは、人生を豊かにすることだと改めて教えてくれる一冊。
次にこの胡椒を挽くとき、私はきっと、カンボジアの風と倉田さんの掌のぬくもりを思い出すだろう。本物の味を知りたいすべての人に、ぜひ読んでほしい、そして「食べて」ほしい傑作ノンフィクションだ。
*読書メモをもとに生成AIで文書化