小暮夕紀子のレビュー一覧
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ネタバレ83歳理容師虎雄とそれを支える寧子の話。
虎雄は寧子の認知症を認めているくせにそれを認めず放置している。仕事と友人にしか手間暇を掛けず、身内程蔑ろにし、人を下に見る癖が抜けないあの感じ。上の世代は特にそのタイプが多いよなぁ、と苦々しく思う。何しろ私の父と非常に似ている。
子供時代にいじめていた同級生が店に訪れた時「許しに来てくれたのだ」と感じる図々しさ。そのおめでたさに苛つくが確かにその思考回路も分かる。相手を思いやる事をサボってきた人ならではの結論。
物語はそんな虎雄の異常さをうっすらと纏わせながら描かれる。傍からみた老夫婦ののんびりとした光景を浮かばせながら。これはホラーかと思った。認 -
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ネタバレ短編2作品とも老人から語られる物語。
●タイガー理髪店心中
できることなら向かい合いたくない、事勿れで過ぎれば、主人公の誰にも明かせない過去と今の胸の内は物語にはならないのだけれど
長年連れ添い、一緒に苦しんでこようと、波風たてないように繕って過ごす時間は、必ずしも愛情だけを育むものではないとぐずぐずと考えてしまう作品。
狂気や気味の悪さの表現が天下一品。
●残暑のゆくえ
70代の女性が幼少期の1年ほど、母と過ごした日ばかりにとらわれていることが気になるが、読むうちに納得がいき、寄り添って抱きしめたいような気持ちになった。
戦争、特に満州から帰ってきた方達の物語で苦しく想像するに耐え難 -
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八十歳を超えた理髪店を営む夫と、認知症になりかかっている妻との暮らしを描いた、林芙美子文学賞受賞の『タイガー理髪店心中』と、もうじき七十七歳を迎える飲食店女将が、店をやりながら一回り以上年上の夫の世話をしている『残暑のゆくえ』の二篇。『タイガー』のほうは六歳の子供を亡くした過去が、今も二人の中にわだかまっていて、『残暑』のほうは、満州引き揚げの記憶にとらわれ続けている。
どちらの話も、これまで取り繕って、見ないふりをしてやり過ごしてきたことが、老年になり、剥き出しになったようで、これが人間の姿かと思うと、怖く、またかなしい気持ちになった。『タイガー』のほうは、子供が亡くなった穴は、夫がかつて -
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表題になっているタイガー理髪店がよかった。
たまたま、いっとき縁のあった人の実家の床屋がちょうど同じロケーションで。
西側に国道、すぐ前には住民の使う細い生活道路。
道の端っこの土部分になんとか工面して植物を植え育てる。まさにその通りで、あの家のことかと思った。
この時代背景で虎雄だったら、きっちりした七三分けよりクラシカルバックの方が、しっくりくると思う。
勝手にクラシカルバックにされたら、困るだろうけど。
あの夫婦同様の道を、私の知る夫婦もたどるのかも…となんとも言えない気持ちになった。
本の内容より、床屋用語や店内に馴染みがあるので、そこばかり注視していた…
なんとも悲しくて切ない -
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文学…
なんだわなぁ
高齢化社会へと突き進む昨今、老人そのものや終活、または看取りを題材にしたものも結構多く読んだが、70〜80代が一人称で語るものは初めてだった。
二作品共に、その背景に人の命を奪った人間の「傷」が横たわる…という特殊なものだった所為なのかあまり心動く事は無かった。
◯タイガー理髪店心中
父の代からの理髪店・タイガー理髪店の経営者・寅雄84歳は、過去に自分がイジメで同級生・サムイチを突き落としたその穴に、幼かった一人息子・辰雄が転落し亡くなっている。
この所急激に物忘れが酷くなってきた妻・寧子の言動に疑念を抱きながらも振り払う日々だったが、ある秋の日、サムイチ -
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「タイガー理髪店心中」という面白いんだかシリアスなんだかわからないタイトルとちょっと不気味な表紙に魅かれて読んでみた。
林芙美子文学賞受賞の標題作と、「残暑のゆくえ」の2つの中編からなる。どちらも80代~90代の夫婦を描いた、いわゆる”玄冬小説”。
あらすじを書いても、感想を書いてもこの作品の魅力が表せないような気がする不思議な作品。どこかすっとぼけてユーモラス、それでいてすごく文学的なところがクセになりそう。なにせ、文章がとってもいい。
そして、どれだけ軽く書いても、青春物にはない説得力とか凄みとかが滲みでてくるのが玄冬小説の魅力かもしれません。