小暮夕紀子のレビュー一覧

  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    83歳理容師虎雄とそれを支える寧子の話。

    虎雄は寧子の認知症を認めているくせにそれを認めず放置している。仕事と友人にしか手間暇を掛けず、身内程蔑ろにし、人を下に見る癖が抜けないあの感じ。上の世代は特にそのタイプが多いよなぁ、と苦々しく思う。何しろ私の父と非常に似ている。
    子供時代にいじめていた同級生が店に訪れた時「許しに来てくれたのだ」と感じる図々しさ。そのおめでたさに苛つくが確かにその思考回路も分かる。相手を思いやる事をサボってきた人ならではの結論。

    物語はそんな虎雄の異常さをうっすらと纏わせながら描かれる。傍からみた老夫婦ののんびりとした光景を浮かばせながら。これはホラーかと思った。認

    0
    2024年07月28日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    奇妙な読後感が残る中編が2つ.村田寅雄がやっているタイガー理髪店を寧子がサポートしている.数少ない登場人物は、友人の長谷川伸也、結衣子など.特に大きな事件もなく、のんびりした空気が流れる物語.何とも落ち着く.後半は、日の出食堂を切りまわす日出代と須賀夫の物語.満州からの引揚者の日出代の思い出がいろいろことに展開していく.両編ともなにげない植物、フジウツギ、ヒイラギ、サルスベリなどが話の中で重要な位置を占めているのが面白かった.

    0
    2022年06月08日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    短編2作品とも老人から語られる物語。

    ●タイガー理髪店心中
    できることなら向かい合いたくない、事勿れで過ぎれば、主人公の誰にも明かせない過去と今の胸の内は物語にはならないのだけれど
    長年連れ添い、一緒に苦しんでこようと、波風たてないように繕って過ごす時間は、必ずしも愛情だけを育むものではないとぐずぐずと考えてしまう作品。
    狂気や気味の悪さの表現が天下一品。


    ●残暑のゆくえ
    70代の女性が幼少期の1年ほど、母と過ごした日ばかりにとらわれていることが気になるが、読むうちに納得がいき、寄り添って抱きしめたいような気持ちになった。

    戦争、特に満州から帰ってきた方達の物語で苦しく想像するに耐え難

    0
    2022年02月28日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    すごく洗練されて上品な印象すら受ける、静かな狂気。少しずつ少しずつ食い込んでくるような、削られていくような。

    迫る狂気と不穏な空気、美しい風景描写が同時に、静謐に描かれる。そして当たり前の様にそこにある自然な殺意。恐ろしい…けど恐ろしくない。なんて言えばいいのかわからない。

    舞台が理髪店なところもいいな。清潔感があって。

    0
    2021年02月15日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    ねぇ、これがデビュー作なんてうそでしょ!??

    鳥肌がすごいよ…
    できれば少しくらい酔ってから読んだほうがいいのかもしれない。

    全体的に薄く漂うユーモアすら背筋を凍らせる。
    悲しい過去を背負った老いた主人公たちの小さな狂気が、こう、ゆっくりゆっくり迫ってくるような。

    個人的には残暑の行方のほうが好きですが、表題作もめちゃくちゃすごいです。(語彙力

    この先この方がどんな作品を生み出すのかとてもとても楽しみです。

    0
    2020年06月06日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    老い…時間の流れからは誰も逃げられない。
    静かに流れていく時間のなかで確実に変化していくものもある。忘れていく記憶、逆に呼び戻される記憶、思い出したくないこと。

    派手な話ではないものの、心にチクチク刺さる内容だった。
    見てはいけないものを見てしまったという、後悔の気持ちすら残る。
    あとからじわりと思い出すような、印象深い1冊。

    0
    2020年02月24日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    八十歳を超えた理髪店を営む夫と、認知症になりかかっている妻との暮らしを描いた、林芙美子文学賞受賞の『タイガー理髪店心中』と、もうじき七十七歳を迎える飲食店女将が、店をやりながら一回り以上年上の夫の世話をしている『残暑のゆくえ』の二篇。『タイガー』のほうは六歳の子供を亡くした過去が、今も二人の中にわだかまっていて、『残暑』のほうは、満州引き揚げの記憶にとらわれ続けている。

    どちらの話も、これまで取り繕って、見ないふりをしてやり過ごしてきたことが、老年になり、剥き出しになったようで、これが人間の姿かと思うと、怖く、またかなしい気持ちになった。『タイガー』のほうは、子供が亡くなった穴は、夫がかつて

    0
    2025年08月04日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    同級生へのいじめの一環で、自分が深く掘った穴に、我が子が落ちて死ぬ。因果なことだなぁ。一見穏やかな老夫婦の辛い過去や、老老介護の場面で生じる互いへの殺意が描かれていた。

    0
    2023年06月04日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    第4回 林芙美子文学賞受賞作「タイガー理髪店心中」に「残暑のゆくえ」を加えた2篇収録。

    表題作はのどかな田舎町で暮らす、どこにでもいそうな老夫婦の話。

    亡き父が残してくれた理髪店「タイガー」83歳の寅雄だが、未だ現役で店主として店を続け、妻の寧子と共に一見平和な暮らしを送る。

    平々凡々な日常生活を送る中、少しづつ壊れて行く妻、それをどこか俯瞰的に見つめる夫、文中からは未必の殺意が感じられ静かな恐怖を感じる。

    「残暑のゆくえ」は食堂を営む日出代とその夫の過去の秘密が、ほの暗さを纏いながら徐々に明かされ陰鬱な読後感。

    0
    2023年02月15日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    表題になっているタイガー理髪店がよかった。

    たまたま、いっとき縁のあった人の実家の床屋がちょうど同じロケーションで。
    西側に国道、すぐ前には住民の使う細い生活道路。
    道の端っこの土部分になんとか工面して植物を植え育てる。まさにその通りで、あの家のことかと思った。
    この時代背景で虎雄だったら、きっちりした七三分けよりクラシカルバックの方が、しっくりくると思う。
    勝手にクラシカルバックにされたら、困るだろうけど。

    あの夫婦同様の道を、私の知る夫婦もたどるのかも…となんとも言えない気持ちになった。
    本の内容より、床屋用語や店内に馴染みがあるので、そこばかり注視していた…

    なんとも悲しくて切ない

    0
    2021年07月13日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    2篇の短編だが、二組の老夫婦を描いた幻想と現実
    の境を見事に表現した文章に、ゾクゾクさせられた。
    ホラーでは無いが、老夫婦の老いて行く現実世界
    と重苦しい過去との邂逅。
    老いて行く日々は目の前の事は忘れて行くが
    過去の記憶は逆に鮮明になって行くのかも知れない。

    0
    2021年02月17日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    中編2編
    どちらも歳をとって来し方を折に触れ振り返る,過去へ誘う物語.過去が記憶と妄想といってもいいような思い出に溶け合って独自の世界を作っていく.少し怖いようなところもある物語.

    0
    2020年10月07日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    文学…
    なんだわなぁ

    高齢化社会へと突き進む昨今、老人そのものや終活、または看取りを題材にしたものも結構多く読んだが、70〜80代が一人称で語るものは初めてだった。

    二作品共に、その背景に人の命を奪った人間の「傷」が横たわる…という特殊なものだった所為なのかあまり心動く事は無かった。


    ◯タイガー理髪店心中

    父の代からの理髪店・タイガー理髪店の経営者・寅雄84歳は、過去に自分がイジメで同級生・サムイチを突き落としたその穴に、幼かった一人息子・辰雄が転落し亡くなっている。

    この所急激に物忘れが酷くなってきた妻・寧子の言動に疑念を抱きながらも振り払う日々だったが、ある秋の日、サムイチ

    0
    2020年04月28日
  • タイガー理髪店心中

    Posted by ブクログ

    「タイガー理髪店心中」という面白いんだかシリアスなんだかわからないタイトルとちょっと不気味な表紙に魅かれて読んでみた。
    林芙美子文学賞受賞の標題作と、「残暑のゆくえ」の2つの中編からなる。どちらも80代~90代の夫婦を描いた、いわゆる”玄冬小説”。

    あらすじを書いても、感想を書いてもこの作品の魅力が表せないような気がする不思議な作品。どこかすっとぼけてユーモラス、それでいてすごく文学的なところがクセになりそう。なにせ、文章がとってもいい。
    そして、どれだけ軽く書いても、青春物にはない説得力とか凄みとかが滲みでてくるのが玄冬小説の魅力かもしれません。

    0
    2020年02月27日