橋場弦のレビュー一覧
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また最高に良い本に巡り会えた。
ソクラテス、プラトンそしてアリストテレスなど、教科書的には伝説の哲学者のように扱われるが、アテナイにおいて政治に経済に深く関わり、血の通った姿が鮮やかに現れてくる。アテナイの民主政を現代の代表制の民主政は認めていないようだが、いかがなものか?少なくとも、情報の透明性を強く訴えた時点で、現代より素晴らしかったのではないか。文明、科学ではまだ未熟で、奴隷制のような非人道的な部分もあるが、民力としてはアテナイのほうが成熟していたように感じる。
碑文習慣が発達していたというくだりでは、「そんなに識字率が高かったのか?」という私の疑問にも、成人男性で15%ほどで、理解 -
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古代ギリシアの民主政について、最新の知見に基づいて書かれた概観書である。古代ギリシアにまったく詳しくないため僭越ではあるが、とてもよくまとまっており、おもしろく読めました。
古代ギリシアにおけるポリス群も出てくるが、本書における主役はやはりアテナイである。アテナイにおいて、どのように民主政が生まれ、盛衰を繰り返しながら、歴史のなかに溶暗していったかが書かれている。
本書の終盤でも触れられているが、思想史にすこし詳しい方なら、いかに民主政が嫌われてきたかを知っているかと思う。それは、民主政を衆愚政治と捉えたり、君主制や貴族制が支配的であったり、最終的にアテナイがローマに支配されたこともあってア -
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古代アテナイについての優れた概説書。
塩野七生氏の物語や伊藤貞夫氏の概説書をとおして、古代ギリシア史についてある程度知っている方が読むことにも耐えると思う。
(むしろ、そういう方こそ、今まで馴染んできた話との違いをとおして楽しめるかもしれない)
古代ギリシア史は、圧倒的な文字資料が残っているアテナイを中心にした記述にならざるをえない。その状況は、ここ数十年で考古学的知見が大量に取り入れられるようになっても変わらない。
そして、アテナイは、土地や人口の規模が類を見ないほど大きな都市国家であった。そんな例外的な存在をもとにして、古代ギリシアの全体像を描かなければならない。そのため、アテナイと -
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”近代民主主義の基本が「代表する」ことにあるならば、古代民主制の基本とは何か?それは「あずかる」、あるいは「分かちあう」ことであると思う” p237
と本書で強調される古代ギリシャ人の政治参加のあり方に、とても共感しました。
「基本的人権」「個人主権」「自由意志」といった観念が形成される以前の人類社会のあり様を、近現代の視点から断じることが、いかに視野狭窄であるか。
”意思”や”権利”が個々人に根差すのではなく、世界全体(cosmos)のなかに根差しているという思想(理論的体系的にはその後のストア派の思想が参照される)が、今日の公共性、社会倫理を考えるうえで十二分に参照されてよいと思います -
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社会保険料と社会保障費を混同している立候補者、食料自給率が何なのかも分からない政治家、外国人問題の本質が理解できていないまま危機感を覚えて立ち上がったという、付け焼き刃な出馬。政治家には無教養であって欲しくないが、しかし、教養の比較的高い層は既に抜けられない社会的立場にあって、立候補のコストに見合う人たちは「無敵の人(選挙版)」である事が比較的多い。あくまで傾向の話で、全てを否定するものではない。
古代ギリシアでの民主制を衆愚政治だと揶揄する声もあるが、それは、識字率の低さによる教養が行き渡らぬ層も影響しているのではないか。更に、演説の印象がそれを誇張させる。著者は、この衆愚政という評価につ -
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ネタバレ目次
はじめに
第1章 民主政の誕生
第2章 市民参加のメカニズム
第3章 試練と再生
第4章 民主政を生きる
第5章 成熟の時代
第6章 去りゆく民主政
おわりに
あとがき
図版出典一覧
関連年表
主要参考文献
概要
橋場先生による、古代ギリシアの民主政治についての通時的概説書。最新の研究に基づき、民主政治が生れたアテナイの歴史の歩みと、アテナイを通じてペロポネソス半島のアルゴスやシチリア島のシラクサなどのポリスに伝播した民主政治の様子を描いている。
本書のモチーフは、著者が明言するように、ソクラテス裁判などを理由にアテナイの民主政治を「衆愚政治」と呼ぶ、プラトン以来のヨーロッパの知的