コケや菌類が大好きで研究者でもある著者が私達が見落としがちな枯れ木の重要性について述べた本。
つまり枯れ木には生態系の維持と炭素貯留という見逃せない価値があるという。
生態系で循環する食物連鎖には植物の炭素の固定から始まり、その生きた植物の葉を生きた昆虫などが食べることにより始まる生食植物網と枯れ木の落葉などの死んだ植物を分解して食べる菌類などの微生物から始まる腐食植物網があるという。
陸上と異なり水中の食物連鎖では腐りづらいからか食べ残しとしての炭素の貯留分は少ない。植物プランクトンは動物プランクトンに食べられ動物プランクトンは小魚に食べられる。
一方で陸の植物網では植物や樹木が食べ尽くされることなく枯れて腐食植物網に回る割合ははるかに高い。また、木や葉にはリグニンという非常に分解しづらい成分があり、リグニンまで分解する菌類は少数派だそうだ。そしてそのリグニンがあるが故に腐食植物網では生食植物網に比べ食物連鎖間の次工程への移動のペースが遅くなり、食物連鎖に関わる生物の数も多く食物連鎖の工程数も多くなるのだという。
例えば木にも人の皮膚や腸のように常在菌がおり、葉の場合は落葉による水分低下を感じ取ると真っ先に菌糸を伸ばし胞子を作るという。またリグニンを分解するため寄ってくるのも窒素固定バクテリアやらその窒素を利用しようとする菌糸類、コケ類などかかわる生物も多様になるそうだ。
そしてその枯れ木のような存在による生物の多様性の確保こそが炭素の貯留であったり、天然水などの水であったり、作物の収穫や建材としての木や素材としての天然ゴムの提供、果てはおいしい空気などの提供という「生態系サービス」の恩恵を我々が知らず知らずのうちに受けていることにつながるのだという。
私もこれを読んで人類の数も自然の食物連鎖のエコシステムになじむくらいまで制御しないとこれからの気候変動に対応できないのではないかと少し不安を感じてしまった。