著者は葬儀屋さん。作家(『煙が目にしみる 火葬場が教えてくれたこと』、『世界のすごいお葬式』がニューヨークタイムズ紙ベストセラーに)でもあり、YouTubeチャンネル(「教えて葬儀屋さん」Ask a Morticician)も持っています。
元々、葬儀屋を志したのは、8歳の時、人の死(少女の転落死)
...続きを読むをはじめて目にしたからだそうで、それ自体もショッキングではあったでしょうが、その年になるまで人の死に触れたことがなかったこともショックだったようです。
つまり、人は誰しも死ぬものなのに、死が人から、特に子供たちから過剰に遠ざけられていないか。
その疑問が出発点にあるようです。
さて、本書はそんな彼女のもとに寄せられた、子供たちからの「死」にまつわる質問集。人気ユーチューバーでもある彼女のところには、いろんな質問が舞い込んできます。子供からのそれは、時に鋭く、時に突拍子もなく、時に絶妙なところを突いてきます。
だって、死体がどうなるのかとか、みんな、実は知りたいよね?
質問は全部で34個。
例えばこんなの。
3)お父さんとお母さんが死んだら頭蓋骨をとっておきたいんだけど?
11)変顔で死んだら変顔のまま永遠に固まっちゃう?
14)死ぬ直前にポップコーンのタネを一袋分飲み込んだら火葬した時にどうなる?
17)もし飛行機で死んじゃったらどうなる?
23)死んだニワトリは食べるのに、死んだ人間を食べないのはなぜ?
さぁどうでしょう?
答えられそうなものもあるけど、ちょっと答えに窮するものもあります。
葬儀の専門家である著者ケイトリンは、どんな質問にも頭ごなしに「そんなこと聞くものじゃないわ」と叱ったりしません。かといっておとぎ話風に誤魔化したりもしません。あまりグロテスクで露悪的なことは言わないけれど、可能な限りで「正しい」答えを(若干ブラックな)ユーモアに包んで返してくれます。その匙加減が絶妙。
解答編。
3)×。人骨に関しては(国にもよるでしょうが)法律の縛りが厳しい。形がはっきりわかるような頭蓋骨を手元に置くのは、なかなか厳しそう。少なくとも現在のアメリカでは無理。
11)×。体中の筋肉は緩むため、死ぬ直前の変顔はすぐゆるゆるになります。死後硬直の前に、死後、変顔にすることは可能ですが、死後硬直もやがては緩むので結局無理。
14)火葬中にポップコーンが死体の中ではじけるかって・・・? 残念。ポップコーンがはじけるにはいい具合に乾燥していることが必要で、また最適な温度(170℃)でなければなりません(火葬炉の平均温度は920℃)。タネは身体の柔らかい部分と一緒に焼却されてしまうでしょう。・・・てか、死んでまでそんないたずらしちゃダメ!
・・・という具合。
子供の質問の着眼点もなかなかおもしろいし、ケイトリンの返しも楽しい。
で、ついでに日米の火葬の違いも少しわかり、なかなか興味深かったりします。日本だとお骨の形で残すのがほとんどですが、アメリカは完全に粉砕して遺灰の形にしてしまうのが一般的。だから骨壺はコーヒー缶ほどの大きさなんだとか。
エンバーミング(死体防腐処理)は日本だとまだそれほど普及はしていないと思いますが、アメリカは行うことがかなり多いようですね。ちなみにエンバーミングが発展する1つの契機となったのが南北戦争。戦地で亡くなった兵士たちを故郷に送るため、防腐処理が施されたのです。ただ技術がまだ確立されておらず、その手法はある種、手あたり次第。おがくずからヒ素まで、さまざまなものが使われました。おがくずならまだしも、ヒ素は有毒で、長い間分解されずに残ります。南北戦争が終わって150年も経つのに、兵士たちの墓からヒ素が漏れ出し、近くの水道を汚染している例があるそうです。
その他、土葬の場合にはどのくらいの深さまで埋めると理想的か、死体の匂いはどんな匂いか、など。
ところどころ、アメリカンジョークがいまひとつ笑えない部分もありますが、死体についてなかなかディープで突っ込んだ話が聞けますよ。