真野森作のレビュー一覧
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ネタバレ先日、ウクライナのロシア占領地に関するNHKスペシャルを観て、ふと思いたって本書を完読した。
印象に残ったのが、ブチャの墓地にたたずむ老母へのインタビューだった。息子が地下室から出たところを、ロシア兵に撃たれたのだと言う。彼女は「プーチン氏に望むことは?」という質問にこう答えた。「私はプーチン氏に自身の子供たちを埋葬してみて貰いたい」
プーチンの罪深さを私に認識させる答えだった。
自身の帝国主義的な野望を理由にウクライナに侵攻し、ロシア人とウクライナ人とを分断したプーチンの罪は計り知れない。戦争が終わったら、私はロシア旅行に行きたい。1日でも早い終結を願います。 -
Posted by ブクログ
本書は、題名で直ぐに判るとは思うが、2022年2月24日以降の「侵攻」を巡る内容である。
本書の著者は大手新聞社で国外に設けた取材拠点に出て取材活動を行う経験を重ねている記者である。本書の内容に在る取材当時(2022年)、更に現在もエジプトのカイロで主に活動している。
ウクライナとロシアとの紛争は2022年2月に突発的に発生したのではない。少なくとも2014年頃から摩擦が続いていた。そして2022年に入って緊張が高まり、2月には「侵攻が起こってしまう」という話しになった。
そうした中、カイロに在った著者は「緊迫する情勢の取材」に従事することとなり、ウクライナに入る。著者はモスクワに在った時期も在り、ロシアやウクライナでの様々な取材経験も有しているという。そういう訳で、適任者として現地へ向かったのだった。
「起ってしまう」という話しが出ていた中で現地取材をし、「起ってしまった」という中でとりあえずウクライナを離れた後、再度取材の準備を行い、4月下旬から5月上旬に現地へ入って再度取材を行っている。
本書の題名に「ルポ」と在る訳だが、こうした現地取材での見聞と、背景情報や見聞からの観方ということが本書の内容ということになる。
国外の注目すべき事態が起こってしまっている地域へ入り込んだ日本人記者の目線で観た現地の様子や一寸した経験が少しだけ挟まりながら、ウクライナ国内の識者、自治体幹部或いは政治家、様々な市井の人々にインタビューを試み、それを纏めたモノが豊富に掲載されている。加えて報じられた、または何らかの形で伝えられたロシア、ウクライナの両大統領の発言等も取上げられる。
結局「人々の肉声」に重きを置いた内容である。“戦場”と化してしまった「自分達の街」で何が起こったのかという生々しい話しも多い。
ロシア側は素早く政権転覆をしてしまう事を図ったと見受けられるが、ウクライナ側がそれを何とか阻止した。そこで戦いが長期化し、余りにも色々な事が起こってしまっている。
ウクライナ側は、政権が主戦論寄りであるかのようにも見えるが、著者の観方は独立を護るべく何とか抗わなければならないと考える世論が強いということである。が、市井の人達の声に耳を傾けるように、本書に在ったインタビューを読めば「生命を擦り減らすような怖ろしい事態を早く収束したい」という想いも強いと感じた。
或いは「収束の機を逸して長期化?」というような状況が、この紛争の中に在るような気もするのだが、本書の内容は知っておくべき内容だと思った。
新聞や雑誌のようなメディアでは「紙幅の制約」というようなモノは免れ悪いと見受けられる。それに対して、本書のような書籍は、現地取材もしたという著者の想いを力一杯に綴ることも叶うであろう。そういう「現地で聴いた肉声」を記録として残し、読者に伝えようという、著者の溢れる想いというようなモノを、頁を繰る毎に感じた。
「戦場の真実」とでも呼ぶべきモノが如何なっているのかは判り悪い面は在るかもしれない。が、“戦場”と化してしまった「自分達の街」―“戦場”を通り越して、失礼ながら“廃墟”の様相を呈してしまっている例まで在る…―で過ごす羽目に陥った人達の肉声は重たい。更に、色々な背景の、ウクライナ国内の識者の観方も興味深い。中には開戦前と進行中との複数回に亘って話しを聴いた方も見受けられ、それが非常に興味深い。
ウクライナにもロシアにもロシア語話者は多く、そういうように自認していないにしてもロシア語を解する人は多い。故に両国間で“言葉”は通じる。が、目下の情勢が進む中で“話し”が通じ悪くなってしまっている面も在るようだ。本書の中ではそういうことも示唆されている。
極個人的には「“言葉”が通じ悪くても“話し”は判る」というような、国境を越える善隣関係の構築と発展を願い続けたという面が在る。そういう経過を負うが故に「“言葉”が通じても“話し”は判らない」という情況が深まっているようであることに戸惑う。そして「“言葉”が通じても“話し”は判らない」という情況下で、多くの生命が擦り減らされるような振舞いが続いていることに戦慄してしまう。
余計な極個人的感想も付しておいたが、本書は広く読まれなくてはならない一冊であると思った。 -
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ウクライナ戦争関係で読んだ本のなかでベスト。
と言っても、これがでたのは、2018年で5年前。つまり、クリミアの併合から、ウクライナ東部での戦争、親露派の国際的に承認されない独立の流れをいろいろな立場の人のインタビューを中心としたルポ。
現在、進行形のウクライナ戦争は、本が執筆されてから、世に出るまでに状況が変わっていって、微妙な読後感があるのだが、今、このウクライナ戦争前のルポを読むことで、この戦争のもとになるロシアとウクライナの対立、そしてウクライナ国内の分裂の構造が見えてくる気がした。
とくに、親露派の人たちがどうと考えているのかがリアリティをもって伝わってくる。かれらにはかれらの思いがあるのだなと。
そして、それを踏まえた上での、プーチンの非情な政治的、戦略的な思考がみえてくる。そして、それを国際社会に対して、もっともらしく説明するやり方が恐ろしさを感じさせる。
このクリミア併合にいたる戦争は、誰が当事者なのかもわからないハイブリッド戦なのだなとあらためて、21世紀の戦争の姿を実感するとともに、今回のウクライナ戦争が時代を100年くらい遡った古典的な戦争なんだなと思った。
この逆行がなにを意味するのか、そのあたりに興味は向かっている。 -
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2回の取材旅行をベースとしたウクライナ戦争のルポ。
戦争の情況の変化を簡単に復習しながら、ウクライナの「識者」だけではなく、たまたま出会った人々のインタビューを中心として構成されている。
当然、インタビューする人によっての偏りはあると思われるものの、多様な意見があることもカバーしてつつ、やはりウクライナ戦争の悲惨さ、ロシア軍の暴力性、苛烈さがあらためてリアルに伝わってくる。
とくに印象的だったのは、ロシア侵攻の前日まで、ウクライナの人たちはそんなことはないだろうと日常の生活を続けていたという情景。
そんな平和な日常が1日でまったく変わってしまうという恐ろしさ。
そして、「平和」ななかでも、もし本当にロシアが攻めてくるのなら、銃をとって戦うということを躊躇うことなく発言する普通の人々。
戦争というものに、完全にどちらが正しいとか、間違っているということはない、というのはその通りであるが、そういう言説をもって、相対化することのできない圧倒的な不条理さがこの戦争にはある。
ここで起きていることは、20世紀の前半の2つの世界大戦と革命のなかで生じた大量虐殺の情況をすぐに思い起こさせる。そして、それがエスカレーションのプロセスを経ずにすぐさま戦争開始とともに始まることに恐ろしさを感じる。
第2次世界大戦での学びからうまれた戦後の努力の積み上げを瞬時に否定するような戦争。あらためて、こうしたことが現在起きていることに恐れ、慄くほかはない。 -
Posted by ブクログ
著者の真野森作さんは、毎日新聞記者。2013年10月から3年半モスクワ特派員として旧ソ連諸国を担当され、本書は丁度その頃から表面化されたウクライナ内での政治的不安定(ヤヌコビッチ大統領のロシアへの接近、反政権デモの拡大、大統領の逃亡、親欧米派の政権樹立)、親ロ派と政権側との衝突、クリミアでの武装集団による庁舎等の占拠、プーチンによるクリミア編入宣言、親ロ派勢力による東部ドネツク,ルガンスク州の主要都市での行政庁舎占拠と独立宣言、ドネツク州上空でのマレーシア航空機爆撃による墜落事件(ロシアは否定しているが、調査結果では親ロ派がロシア製地対空ミサイルで撃ち落としたとされる)、戦闘の拡大を、実際に現場に赴き見聞きした内容で書いている。
今でこそ毎日のようにウクライナの戦闘が報じられているが、思い起こせば2014年には既に衝突があり、ロシアから身柄を隠した兵士が親ロ派武力組織と合流して、ウクライナの破壊的な工作を行っていたのだ。
欧米や日本からも一部制裁を行っていたものの、全く気合いが入っているものではなく、2016年12月には当時の安倍首相がプーチン大統領を地元山口に招待し、熱烈とも言える歓迎をしている。
現場ルポもさることながら、ウクライナの歴史、クリミア·タタール人の歴史が紹介され、特に東部やクリミアでのロシアの存在感を理解することの参考にさせてくれる。
最後に大物へのインタビューを通じてプーチンの戦略が述べられる。
火種が残る中の民主化は難しいものだ。こうなることは予想されていたとは言え、ソ連崩壊により独立から間もないウクライナにとって、ロシアとの縁を完全に断ち切ることは不可能だっただろう。
またウクライナの核兵器廃棄と引き換えにウクライナの安全を保障するとした1994年のブダペスト覚書をロシアが守らなかったにも関わらず、その締結に入っていたイギリス、アメリカの無策は責任が重い。
戦闘が続き前が読めないウクライナ紛争、かの国の将来はプーチン一人の掌にあると分かっているのだが… -
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クリミア半島侵略前後の数年に渡り、ウクライナやロシアなど現地を回った貴重な記録。
東部地域はロシア系住民が多いとはいえ、過半数はない。それでも侵略を許してしまったのは、ウクライナ政府の失政が積み重なり、人民の信頼が失われていたことが大きい。
逆にウクライナ政府がまっとうな政治を行い、信頼を得ていたのなら、こうも簡単に侵略を許さなかったのではないかと思う。
世代間の意識の違い、「為政者が変わればバラ色の生活に変わる」というような妄想、情報戦、結局被害を受けるのは現地の一般市民、など、2022年のロシアの蛮行における状況と同じ状況や、現在につながることが多い。
各地の一般市民、兵士、政治家など、双方の様々な人の声を丹念に拾っていて、とても充実した内容となっている。切実な状況が伝わってくる。 -
Posted by ブクログ
長期にわたり危険な紛争現場に滞在し、現地の多くの人々の生の声を取材した労作。以下、自分用のメモとしてカンタンに情報をまとめてみた(誤りがあるかも)。
・親露派ヤヌコヴィッチ政権がEU連合協定拒否
・反政府デモにより政権崩壊、大統領亡命
・政府はオリガルヒと通じた汚職が蔓延
・中央集権主義と汚職が東部の反発を招く
・新政権で進出した極右の存在に東部が恐怖を抱く
・国籍を隠したロシア正規兵が大きな役割を果たす
・クリミア紛争ではウクライナ軍の対応が遅く稚拙
・クリミア分離で少数派タタール人迫害の危機
・クリミアでの分離独立の住民投票は、親露派覆面兵士の管理の下実施された。反対者はボイコット。
・分離派はソ連ノスタルジーを抱く高齢者に多い
・紛争地域では深刻な経済停滞、人命の危機
・ドネツク/ルガンスクの紛争では、ロシアは財政圧迫の懸念から編入の予定はない
・ドネツク/ルガンスク紛争のロシアの目的は、ウクライナの不安定化とEU/NATO加盟阻止
・独立地域ではソ連的なメディア統制を実施
・独立地域住民への中央政府の行政サービス(年金・給与など)は全て差し止め
・独立地域は財政難。ロシアや地元富豪の支援金で成立。
こんなところか。本書では、ルガンスク地域に関するルポは無く、クリミアとドネツクが中心。筆者は、現地の記者としばしば行動を共にし、そのツテや時に飛び込みにより、現地の指導者へ取材を行っている。読んでいて、臨場感があった。大層骨折って、文字通り命を懸けた取材だったということが分かる。
そして、筆者は極力様々な立場(統一派・分離派双方)へインタビューをすることに努め、偏りのないよう気を使っていた。結果として、筆者はどちらかといえば、過度な情報統制を行い人命を軽視する親露独立派に対して、否定的な結論を出しているようだ。筆者は、親露独立派が本当に多数派の意見を代弁しているのかについて、疑問を投げかけている。もちろん、筆者は不甲斐ないウクライナ政府にも批判的だ。
何にせよ、本書は2014危機の概要を掴むのにとても役立った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ2012~2015年の3年間、モスクワに暮らした身としては、懐かしさと共に、欠けていたパズルのピースがひとつひとつハマっていくような快感すら覚える好著。冒頭から最後までワクワクしながら読み進むことができた(かなりの文量、情報量だけど)。
ソチ冬季五輪が終わってから急転したロシア=ウクライナ関係。干渉から内戦へ、あっという間(という気がした)クリミア併合、マレーシア機撃墜、次々に強化される西側の制裁。国民生活にも直結する事態でもありながら、最終的には、それなりの安定を取り戻していく大国の度量に畏れ入ったと感服していたが、そうとうに用意周到にコトが運ばれたことを、時系列で推移を追ってみて改めて思い知らされる。
“皇帝”の剛腕の凄み。北方領土が還ってこないのは、まだいいほう。その気になれば北海道くらい簡単に掻っ攫われそうだ。
ウクライナとロシアの歴史的関係、地域的な文化や言語、民族の違いなども丁寧に解説されていて、たいへん勉強になる。
1991年に初めてロシア(当時はまだソ連)の地で暮らしたときに仲良くなったタタール人の一家がいたけど、当時は不勉強で、彼らがどんな立場、どんな歴史を経てロシアの地に居るかを知っていれば、また違った接し方があったろうか。いろいろ考えさせられる。
そんな歴史的背景を踏まえ、ロシア側、ウクライナ側、親露、ノンポリ、市民、軍人、政治家、地方記者、学生、etc. 立場の違う多くの当事者、関係者の意見、見方を拾い上げているところが本書のなによりの読みどころ。とはいえ、
“「冷戦の勝者」を自認する米国の一極支配にあらがって多極的な世界を構築し、ロシアがその一極の座を死守することー。 それがプーチン政権の目標”
とし、プーチン元側近アンドレイ・イラリオノフから、プーチンの狙いについて
「ソ連崩壊後の世界を修正したいと考えている。その一環がクリミアであり、ドンバスだ。彼は『ルースキー・ミール(ロシア的世界)』と呼ばれるものを復興させようとしている。その基本理念は完全には明確ではないが、現在のロシアの国境線を膨張させる考えだろう」
との発言を引き出し終盤に配するあたり、誰がなんと言おうと、ウクライナでの一連の動きは、ロシアの、つまりはプーチンの野望とも言える構想の中で展開されたということを強く印象付ける。
俯瞰的に見ればそうと思えるが、それなのに、本書でインタビューされた立場の違う多くの人が、それぞれの思惑、狙い、感想を持っている事実こそが、これこそ情報戦も含めた、ハイブリッド戦争だということを、本書は不気味に浮かび上がらせる。 皇帝の視座からは、全てが見えていたのかもしれないが、市井のレベルでは、あらゆる価値観が存在し、それぞれの正義に基づいた“事実”が存在する。
著者と行動を共にし現場へ入ることの多い地元記者ヤナ・トカチェンコの言葉に、こんなのがあった。
「砲弾がどこから飛んできたのか、はっきりしないことには注意した方がいい。前線の両側から弾が飛んでくる。人々はみんな自分が信じるように語っている」。
内戦や紛争が起こっている現場の状況を語ったものだが、「砲弾」を「情報」という単語に置き換えてみると面白い。それぞれに自分の信じる真実がある。これが近代の戦争の姿、あるいは世の理(ことわり)ということだ。
可能な限り、立場、階級、思想を跨ぎ越えて、多くの証言を縦横に駆使して本書は構成されているが、それによって、ひとつの真実を炙り出しているのではないという気がした。
♪様々な角度から物事を見ていたら、自分を見失ってた(『イノセント・ワールド』作詩:桜井和寿 Mr. Children 1994)
平成の世がはじまった頃に流行った歌の詞であるが、ひとつ元号を終え、四半世紀の時を経て、情報伝播の速度が格段に加速した今の時代、様々な角度から様々な見方があるどころか、このイノセント・ワールドには様々な物事、様々な真実すら存在することを、改めて認識させられた。
真実が、ひとつなどと思わないほうが良いという示唆、強烈な警鐘が本書からは聞こえてくる。 -
Posted by ブクログ
2022年2月、ロシアがウクライナを侵攻したニュースを見て、現代のヨーロッパでこんなことが起こるのかと不思議に思い、ロシア(プーチン)について知りたいと思った。2022年以前から、ロシアはウクライナを侵攻していた。クリミア侵攻、ドンバス侵攻・・・他にもウクライナではないがジョージアの南オセチア、日本の千島列島もしかり。ウクライナの中でも温度感は様々だった。ウクライナの人口構成もこの問題を複雑にしている。西側は親欧米寄りの住民が、東側に親ロシア寄りの住民が多い。プーチンはウクライナからの解放だと声高に言って、東部地方やクリミアを侵攻・支配している。ロシアの侵攻を喜ぶウクライナ人も居れば、侵略だと言って抵抗するウクライナ人も居る。多民族が、一つの国家で平和に暮らすというのは非常に難しいことだと分かる。