四宮義俊のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
もう「叫ぶ詩人の会」の歌を聞いて以来,ドリアンのファンになってしまったので,評価は付けられない(5以外にない(^^;;)。
さて本書について…
新宿に住む十数匹の野良猫を題材にして小説が書けることが面白い。主人公の山ちゃんという男性(ボク)。小さな焼き鳥屋の店員の夢ちゃんという女性。その焼き鳥屋に集まる常連は,なかなかクセのあるメンバーだ。
小説の常で,内容についてちょっとでも紹介すると,読むときのドキドキさがなくなる。だから,これ以上は書かない。
ただ,いろんな創作や文学や芸術は,一般大衆の大多数を相手にするのではなく,目の前にいる一人に向けて行うものではないか…という作者の訴えには,納得する。
この小説も,1人に向けて書かれたもの。その1人は,わたしであり,あなたである。そして,このレビューも,今,これを読んでいるあなたに向けて書こうと思って書いているのである。 -
Posted by ブクログ
構成作家の卵である「ボク」は明日の見えない闇の中でもがいていた。
そんなある夜、何となく立ち寄った新宿ゴールデン街にある花梨花という小さな居酒屋で、野良猫を可愛がる夢ちゃんという女性店員と出逢う。客には無愛想だが不思議な優しさを秘めた夢ちゃんに「ボク」は惹かれてゆく。
2人は次第に距離を縮め、猫についての秘密を分け合い、大切な約束をするのだが…。
読んでいる最中に、これはもしかしたら、程度は分からないけれど作者の実体験も入っているのかな?と思った。というのも、夢ちゃんは詩作が趣味で、その夢ちゃんに影響されて主人公も詩を書き始めるくだりがあって、2人が書いた詩も作中に登場するから(作者は詩人でもある)。
新宿ゴールデン街にある小さな居酒屋の描写も妙にリアリティがあって、いかにも実在しそうな雰囲気。
読み終えた後にある一部分がノンフィクションであることが明かされて、やっぱり、と納得した。
「ボク」は色弱というコンプレックスを、夢ちゃんは生い立ちの壮絶さと斜視気味であるというコンプレックスを抱えていて、生きる上でのハンディを感じた経験から生きづらさを抱えながらもどうにか生活を立てていた。
そんな2人だからこそ、多く言葉を交わさなくても分かり合える部分があったし、惹かれ合ったのだと思う。
それが実を結ばないとしても、ずっと心の中に在って忘れることはない相手というのは実際にもいる。同じ世界の中で幸せでいてくれることを心から願える相手。
ドリアン助川さんの小説には生きづらさを抱える人が多く登場する。読んでいて共感する部分もあるし、うまく立ち回れない登場人物に胸苦しくなることもある。
だけどいつも優しい。他人から見れば幸福な人生には見えないかもしれないけれど、それぞれ幸せなかたちを見つけて生きていく人たちの姿が描写されているから。
読み終えた後はじーんと温かい気持ちになる。
この小説もそうだった。すぐ側にいそうな平凡な人たちのひっそりとした人生ドラマが、丁寧に綴られていた(ちなみに猫の描写もとても丁寧だった)。
「ボク」と夢ちゃんの、お互いを守り大事に思う気持ちが眩しく、そして切ない物語だった。 -
Posted by ブクログ
売れない構成作家の卵と過去に傷を持つ女性の淡い恋の物語。
バブル期の新宿ゴールデン街にたたずむ居酒屋・花梨花。
山崎は色弱で、希望した就職ができず、有名構成作家の元で仕事を始めたが、大勢の人に向けたメッセージを生み出すことに喘いでいた。
花梨花にふらりと入った山崎は、店員の夢ちゃんと出会う。
夢ちゃんは斜視があり、不思議な雰囲気を持つ女性で、猫好きでもあった。
その店では、店の窓に現れる猫を予想して賭けをする「猫じゃん」をしていて、夢ちゃんお手製の「猫の家族図」が張ってあった。
次第に夢ちゃんに惹かれていく山崎は、ある日、夢ちゃんの悩みを聞くことになったが、2人の間は突然引き裂かれてしまう。
時代は流れ、2人は再会する。
ドリアンさんが描く雰囲気が好きです。 -
Posted by ブクログ
新宿ゴールデン街。ちょっと怖くて胡散臭いけれどちょっと憧れます。
かつての捻じれた若者達が大人になった今、昔どうしてそうなったのか分からない事だらけで、どの扉を開ければ未来につながっているのか全然分からなくて、悶えていた時の気持ちは今も残っているでしょうか。
たくさんの猫がひょっこり顔を出す居酒屋。店員の女の子の書いた猫の家族図。猥雑でどこか暖かな人々。色弱というハンデを背負って夢であった映像の道を絶たれ、いつも背中を丸めてもがいているような主人公。初速は遅いけれど読んでいるうちに心に加速がついて、心が次々追い抜かしていく風景はかつて自分が見た風景だったような気がしました。
昔が懐かしく、過ぎ去った時間が戻らない事が悔やまれるように、今の時間も同じように戻れない愛おしい時間だと感じさせてくれる本です。
ドリアンさんの視点は優しい。
また信頼できる作家を一人発見。 -
Posted by ブクログ
バブルを迎えた頃の新宿ゴールデン街を舞台にした恋愛小説。
主人公と、主人公が恋をする飲み屋の女の子夢ちゃんのどちらも視覚に問題があり、それが色や感覚や猫につながっていくところは上手いなと思った。
みんなに、ではなく誰か一人の心にとどくものを、という思いは、この作者の全ての作品に通じるものかもしれない。
大江健三郎の『個人的な体験』で、個人的な体験を掘り下げていけば、普遍的な道にたどり着く、みたいな表現があったけど、それと似ている気がする。
実体験者だけにバブルの頃の勢いのある猥雑な雰囲気がよく出てて、こういうのは若い人が想像で書くのは難しいだろうなとも思った。
読み始めたらイッキ読みで、このリーダビリティの高さも素晴らしい。
難を言えば、不幸な生い立ちでろくな教育も受けてない夢ちゃんが知的過ぎて、ちょっとリアリティには欠けるかな、というところと、二人が書いた詩の作風が同じであるところ。書いてるのは作者なんだから当然ではあるが、詩は小説以上に人柄がでるものなので、もうちょっと違いがあっても良かったような気がする。
これも映画になりそうな話ではあった。猫がいっぱい出てきてよさそう。