平井啓のレビュー一覧
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医療に関する意思決定をする際に陥りやすい『思考のクセ』をわかりやすくまとめてくれた一冊。
行動経済学の枠組みを一通り説明したのちに、具体的によく見られる事例を紹介してくれていることで、すごく納得感があり、学びの多い内容となっていました。
患者目線では、陥りやすいバイアスを知っておくことで、より適切な意思決定に近づくことができると思われる。
また、医療従事者の目線では、患者及び医療者が陥りやすいバイアスのことを理解した上で、ターゲットになる行動と対象者に合わせた情報提供や行動について塾講する必要がある。
今回の気づきをまとめると以下の通り。
①インフォームドコンセントの時代からリバタリアンパターナリズムやシェアードディシジョンメーキングの時代へ。
②特に無関心層に行動変容を促すことが喫緊の課題である。ターゲットの特徴を理解した上で、ナッジ活用を検討する。
③アドバンスディレクションやアドバンスケアプランニングについて考えておく。
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Posted by ブクログ
ネタバレ「行動経済学」とのタイトルではあるが、患者やその家族との医師の関わり方について、指針を示すことに紙面の多くを割いている。
患者とのコミュニケーション技術に関するノウハウを書き並べるのではなく、過去の論文や研究に基づいた書き方には非常に説得力があった。
盲目的・マニュアル的に患者及びその家族の診療にあたってはいけない、と再認識させられる内容であった。
特に終末期は、しばしば合理的とは思えない判断をしてしまうことは普通であり、むしろ当たり前かもしれない。
患者は合理的な判断をいつでも出来るわけではない、ということは全ての医療従事者が知っておくべきことであり、その点において行動経済学は医療(治療方針決定や予防行動など)との親和性は高いと言える。
そして、患者の判断は常に合理的ではないという事実は、ともすれば医師のパターナリズムに逆戻りする危険性を示しており、活用も悪用もできると感じた。
コミュニケーションがうまくいかなかった場合に、どこに原因があったのかをチェックする意味でも、この本に取り上げられている行動経済学的特性は、頭に入れておいて損はない。
大事なのは、そういった特性を誰しも持っているのだと、知ることなのだろう。
ヒューリスティックスをうまく使えるのはソーシャルワーカーや看護師の方かもしれない、と言う説は、本当にそうだよなと思ったし、尚更コメディカルとの連携が必要だと感じた。
公衆衛生を整備するためには、内容云々よりも、啓発をいかにうまくやるかにかかっていると感じた。
やるのは、政府か?インフルエンサーか?企業か?
栄養士や看護師、医療職は対個人のアプローチはできるが、全体的な促進には、大規模な取り組み方が必要で、真に健康を目指すのであれば、所持しているコンテンツだけでなく、「伝える力」も必要であろう。
その点において、メディアはいい意味でも悪い意味でも強大で、協力していきたい存在だ。
人間の「あるある」を分析し、定義しているのが行動経済学なのだろうか。「ライフハック」を「ナッジ」と呼び、学問的に捉えている。
GRID(やりぬく力)というのは、行動経済学的に大多数の人が持っている現在バイアスを克服してコミットメントするためのテクニックだ。であれば、裏技的な本は売れるに決まっている。
参照点を変えることで、見方が変わる、と知っていれば、今の自分の判断を、参照点を変えて捉え直す過程を追加し、合理性を上げられるかもしれない。
全体的に、再読したい書籍だった。 -
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この本はドライかもしれませんが今の医療のあり方と社会保障のあり方の中で1つの処方箋を示すものになると思います。
もちろん治すための医療は必要ですが身体に負担をかけてまで高度医療を続けるのか。
社会保障の観点からも議論が必要です。
サンクコストバイアス(返ってこないコストにこだわる)
現状維持バイアス(明日も同じことが起こると思う)
現在バイアス(先送り)
利用可能性ヒューリスティック(身近で目立つ情報を優先)
人の意思決定はいろいろバイアスがかかっており経済的に合理性のある決断をするわけではないということです。
そういう意味で医療の適正化という目的に向けて有効な手段を取るにあたって人間の意思決定のクセを利用する必要があると思います。
そのためには行動経済学を知る必要があります。
仕事に活用するのにちょっと真剣に勉強しなあかん分野やなと思います。 -
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思ってたよりずっと骨太な内容だった。
なぜ人が合理的な決断ができないのかを考える上で、患者のみならず医師側のバイアス、ヒューリスティックによる影響を受けることについては多く言われることですが、多くの臨床における例を挙げながらそれらについて考察を進めていく。
ケースはいずれも医療者であれば体験したことがあるであろう内容であった。
ただ、行動経済学だけでは意思決定における人間の姿の解像度が低いようにも思えました。
患者家族の決定について語っているところについては、合理性に影響するヒューリスティックに注目するより、家族が責任を感じるのはどのような状況か、についてむしろ個人的には興味を持ちました。なぜ合理的な決定ができないのか?なんて上から見るだけでなく、家族たちが何を恐れているのかによりそう重要性を思い。行動経済学的には、こういう理由であなたが合理的判断ができてないのですよ、みたいな人物が増えるのは鬱屈した気持ちになります。
患者や家族が何を目標にしているのかで、どの決定が合理的になるのかは微妙に異なるとも思うので、医療者はそういう意味でも試されているのだと思いました。 -
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前作『医療現場の行動経済学』の続編として、様々な医療の現場での行動経済学の”実践”的な事例を示した一冊。2018年に出版された前作から今作への大きな変化といえば新型コロナウイルス感染症の猛威と、編者である大阪大学 大竹教授が政府の新型コロナウイルス感染症対策部会に行動経済学の専門家として招集された点であろう。行動経済学を用いた行動変容への期待が高まっているこのタイミングで、様々な領域での実践事例が紹介される意義は大きい。
前作でも様々な領域での実践事例が紹介されていたが、本書ではその領域の広がりを感じられる構成となっている。
例えば、40歳以上の国民に受診が義務付けられている特定健診の受診勧奨においては、一般的なハガキではなくSMSを利用することで、ハガキよりも費用対効果を高められる可能性が示唆されている。
また、”稀有な事例がメディアなどで報道されることで非常に高い確率で発生する”かのように誤解してしまう利用性可能性ヒューリティクスの典型例として、HPVワクチンの事例に加えて、アトピー性皮膚炎などに対するステロイド剤利用への忌避が取り上げられている。後者はまさに極めて強固なバイアスがステロイド剤への忌避を生み、結果として悪質な代替医療ビジネスが跋扈しているという点で、行動経済学などの知見をフルに活用してその忌避を解きほぐしていくことの重要性は非常に大きいはずである。
行動経済学自体は当然、どんな場合にも効果を発揮する万能薬なわけではないものの、医療現場において極めて汎用的に使える一つの”ツール”である。その幅広い領域での有用性を実感できる良書である。 -
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医学、公衆衛生学、心理学、行動経済学などの分野の研究者が集まり、行動経済学の医療への応用について研究を進めてきたその集大成といえる本。
第1部で行動経済学の枠組みから入り、医療行動経済学的研究を紹介する。第2部では、主に患者と家族の意思決定のバイアスについて議論する。がん治療における適切な意思決定支援、がん検診受診率を上げるために行動変容を起こさせるナッジ、高齢患者への意思決定支援、デフォルトによる臓器提供意思表示の変容などについて論じている。
また、第3部では医療者側にも様々な意思決定におけるバイアスがあることを紹介する。生命維持治療の「差し控え」と「中止」の倫理的違い、ガイドラインの行動経済学的役割、急性期の意思決定の難しさなどに言及する。
行動経済学や医学の専門用語が次から次へと出てきたり、日頃なじみのない医療現場や奥の深い臨床倫理にも入り込むため、興味津々になると同時に専門性についていけない部分もあった。
興味深かったことを以下に列挙しておく。
①「今年度に大腸がん検診を受診しなければ、来年度は便検査キットが送付されません」という損失を強調したメッセージは、「受診すれば来年度もキットを送る」というメッセージより受診率が高くなった。
②乳がん検診受診について、継続受診者、行く意図はあるが決めていない、がんが見つかるのが怖いからいかない、罹患について全く心配してないから行かないなどのセグメントに応じて、優しいトーンや深刻なトーンを使い分ける啓発リーフレットを作成するというナッジ
③がん患者の意思決定支援に行動経済学的アプローチ(ナッジ)を用いる場合、患者の意思を誘導することで倫理的でないという反論も多い。臓器提供意思表示を義務づける選択肢をデフォルトとすることについて、回答の強制という意味で倫理的な争点となる
④生命維持治療で「差し控え」は治療を開始することによる「心身の苦痛」という「損失」が「生命の延長」という「利得」より大きいとされ、いったん始めた治療を「中止」する場合は「生命が短縮する」という「損失」の方が中止による「苦痛からの解放」という「利得」より大きいと評価される。この逆転現象には治療開始前と治療開始後という「参照点」の違い
が大きく影響している。
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2017年のノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーなど、経済学の中でも近年注目を集める行動経済学。行動経済学の良さの一つは、経済的インセンティブだけで動くのではないという人間の非合理性を明らかにすることで、特定の人々を動かすための有意味なアプローチを我々に与えてくれる点にある。
こうした行動経済学が実際に活用され、効果が出始めており、更なる実践が期待される領域、それが医療である。本書は医療現場における行動経済学の実践例などをまとめた一冊であるが、その対象は患者もしくは患者予備軍(”病気にならないように健康に配慮した生活”を送らせる)だけではなく、医者に最適な行動を取らせるにはどうすべきか、という広い応用例がまとめられている。本書の中心となるのは、行動経済学における損失回避などの人間特性を踏まえた”ナッジ理論”による行動変容が主体となる。
・がんの検診率を上げるためにはどうするか?
・臓器提供の意思をどう表明してもらうか?
・医師に不適切な薬剤処方を減らすためにはどうすべきか?
など、医療現場が抱える様々な課題に対して、大きくコストをかけず、かつ義務・強制などのように選択肢の自由を奪うことなく、行動変容を実現させるためのアプローチが紹介されており、ナッジ理論の可能性をわかりやすく理解することができる良書であった。 -
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行動経済学では、ヒトは合理的な存在ではなく、思考に一定のバイアスが存在すると考える。この本では、実臨床で遭遇する具体的な問題について、行動経済学的なアプローチから問題の原因をデータで証明しながら考察し、解決案を提示している。また、患者だけではなく、医師も思考のバイアスがあるとし、それにより生じる問題に対する解決案も提示している。行動経済学のそのような考え方は参考にすべきであり、臨床の場でも応用すべく行動経済学を一度しっかりと学びたいと感じた。
本書では行動経済学についての説明は十分ではないため、行動経済学を一度触れてから本書を読んだ方がさらに理解は深まると予想される。
本書は臨床の場に立つ方にはもちろん、行政や医療系ビジネスに関心がある人にとっても患者の受療行動や予防成績を向上させるのに参考になるため、一度読むことを勧めたい。