佐藤亜紀のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレはあ〜とっても面白かった。
誰もが自分の望みを持つ。その果たし方に時代性が出る。ヤネケにもヤンにも望みがある。2人にとって愛は意志であり、自分の欲するところを主張はするが、相手の意に反することを強制はしない。いたって現代的な倫理観と理知的な関係性だ。時代風のヤンがそういった態度を身につけていることがむしろ驚きなのだが、ヤンには体験から真摯に学ぶ才能がある。ヤネケが奇矯に見えるのは、彼女の所有欲が極端に低い上に実利主義だからだろう。
個体の能力や特性にはばらつきがある。様々な制約はあれど、それは普遍の真理みたいなもので、その中で自由に生きることができる。その哀しみ、苦しみ、開放感、喜びが、読んでいると身に染みてくる。
無数の無差別の可能性が収束する様は神にしか見て取れない。幸いなことに、人には愚かに生きる自由さえある。 -
Posted by ブクログ
怠惰な金持ちが投げやりになって落ちぶれていく物語
第一次大戦から第二次大戦の間のヨーロッパの雰囲気は世界史の教科書でしか読んだことがなく、世界観がなかなか掴めない。インディージョーンズやサウンドオブミュージック、チャップリンの映画の世界観をイメージしながら読み進めるが、なんとなくピンとこない。
読み進めるまで一人の体に二人の人格という設定がなかなか理解できず、登場人物の名前も覚えづらく感じられてなかなか読む勢いがつかなかった。
後半に差し掛かってやっと設定が理解でき、SFを読むような感覚で最後まで一気読む。
何が面白かったのか、うまく説明できないが、面白かった。設定を理解できた二度目、三度目に読んだ時の方がきっとさらに面白く感じられると思う。 -
Posted by ブクログ
イカした小説だった。ナチスが幅を利かしていた時代のハンブルクを舞台に、ジャズにかぶれた連中(スウィング・ボーイズ)がしたたかにしなやかに生き抜いていく物語。
レジスタンスのように真っ向から抗うのも尊いけど、この小説のスウィング・ボーイズのように軟派を装ってカッコつけ、相手にしないようでいて器用に裏をかいているようなのって素敵だ。ナチスの時代というとすべてが灰色あるいは真っ黒に思われかねないけど、笑うときもあれば悦びのときもありながら人は生きていたはず。そんな一面を表現してくれているような気がするよ。
その極めつけのような聡い青年が主人公のエディだと思う(もう一人あげるとしたらマックスだね)。物事や世の真理、人の心理が直感的にわかってる世渡り上手(それでいながら嫌味がない)、楽しむことにも貪欲でありながらしっかり成果もあげられるタイプ。
エディやマックスの言動を読みながら、最近、男性作家の(日本人の)少年や青年を主人公にした小説2作品で、主人公の彼らが一歩引いたところから俯瞰的に物事を見ているような、いってみればずるいスタンスなのに、周囲の人から買われている様子なのってちょっとおかしいと思ったことを思い出した。それは、カッコいいとはいえない男性作家が自分と似たタイプを主人公に願望混ぜてそういうこういうキャラクターになっているんじゃないかなと思っているんだけど、この小説のエディはマックスは文句なし、ちゃんとうなずけるカッコよさがある。それって、女性作家の手になるからだろうか。
作家の力といえば……と話題を強引にもってきたけど、こんな小説を日本人が書いちゃってるのもすごい!
欧米(語)の小説の文調と日本語の小説の文調ってやっぱり違っていて、それって翻訳して日本語になった小説を読んだところで、外国ものは読みにくい、その小説の世界に入りにくいなと思ってるんだけど、この小説はそういう思いになることがない。馴れしみ込んでる日本語で一から書かれているだけあって、すぐに目の前に情景が浮かんでくる。そして題材自体の面白さもあってどんどん読んでいける。
これ、映画化(洋画)するといいのに。小難しいミニシアター系の映画とかじゃなくて、ハリウッドのエンタメ感ありありでつくったほうがいいなあ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ第2次世界大戦前夜から戦中にかけ、いわゆる敵性音楽であるジャズに魅了されたドイツのティーンエイジャーたち、"スウィングボーイズ"の物語。
懇切丁寧なガイド付き小説とは違い、あれ、これについてなんか説明あったかな? とポヤポヤしているとあっという間に置いていかれそうな、まさしくインプロヴィゼーションが連なるジャズセッションのような作品で、その音楽的なリズムとテンポが読み進むうちにドンドン心地良くなってくる。
政治的思想は持たなかったと言われているスウィングボーイズだが、戦時下という特殊な状況だからこそ、純朴な魂が発する叫びには説得力が籠り、物語中盤、ベルゲドルフに収容されたエディが目にする数々の理不尽に対し「お前から逃れるまで、僕はお前のことを考える」と呼び掛けて締めるくだりに、それは凝縮されている。
どこにも偏移せず、ひたすら自分がかっこいいと感じるものだけを追い続けた彼らの価値観が嫌悪とともに爪弾きにしたようなものは、絶対的に間違っているのではないですか、ということだ。
まあこうして駄文を綴って分析するのも野暮の極みと思われる、どちらかというと右脳で味わうような作品かも。 -
Posted by ブクログ
第二次大戦末期、ナチスドイツの従属国であるハンガリー。連合国の侵攻が続く中、大蔵省の役人であるバログはユダヤ人から没取した財産を略奪から保護する為の黄金列車に乗り、首都ブダペシュトを出発する...
ユダヤ人迫害で大切な友人やささやかな幸福を失い、乾いた絶望に全身を侵された主人公、バログ。ナチスドイツのかつての同盟国であり今や属国であるハンガリーの特殊な状況の中、よりにもよってユダヤ人から没取した財産を保護する委員会の一員に任じられ、眼前に現出する事態に淡々と対処していく様を描いた異色の作品。
十全に理解するにはちょっとこちらの歴史知識も読解力も追いつかず、読んでいる間はもどかしさが募った。もともと歯応えありまくりの佐藤亜紀作品だが、その中でもエンタメ性やサービス精神がかなり抑えめの部類に入る作品。言語化の難しい不思議な感慨の残る読後感ではあった。 -
Posted by ブクログ
WW2末期、ナチス支配下のハンガリーの財務官バログはソ連軍が迫る首都からオーストリアに向けて国が保有する資産を運ぶ任務を遂行する。その資産とは、ユダヤ人から没収したものだった。
----------------
佐藤さんの東欧戦争ものは「ミノタウロス」に続いて2作目です。こちらは史実にもある、ユダヤ人の没収資産を輸送する黄金列車を描いた小説です。
莫大な物資と関係者をソ連軍が来る前にどうやって運び出すのか、その様子と、ナチスが政権をとって次第にヨーロッパ全体が恐怖に包まれてゆき、バログの友人のユダヤ人が追い詰められてゆく様子が交互に語られて、佐藤さんの文章もあいまって緊張感のあるままラストに向かって突き進みます。
しかし「ミノタウロス」を読んだ後だと、正直なところあまり迫るものはありませんでした。史実をベースにしているということもあるのか、思ったよりもさらりと終わった印象でした。 -
Posted by ブクログ
1902年ごろのウクライナ地方
戦争、革命、内戦の頃の話
広大な土地を謎の男から譲られた父
成り上がりながらも
成功をおさめ、次男であるヴァシリも
きちんとした教育をうけ、
いずれは農場主となると思われた
が、時代はそれを許さなかった
戦争、革命、
それに翻弄される若者たちが
暴れ回る
はじめは傍観を決め込んでいた
ヴァシリも
やがて、そうはいかなくなる
もともと暴力的な部分もあって
ドイツ兵の仲間を連れて
自らならずものになっていく
たいへん疲れる内容で苦労して読んだ
戦争中
村を襲って全滅させる
女性はいたずらされてから
殺される
当たり前のように
行われてきた歴史
生きていくために
殺されないために
話題だった「同志少女よ敵を撃て」
の中でも主人公の少女は
幼い頃村を敵に襲われて
すべてを失っている
容赦なく女性はいたずらされてから
殺されている
朝ドラの「あんぱん」でも
日本兵が罪のない村を襲い
全滅させている
生き残った子供が
たまたま仲良くしていた日本兵を
殺すことになる
後に
殺された日本兵の息子が
聞く
『なぜ父は殺されたのですか』と
その問いに
「戦争というのはそういうものです」
と語っている
目を背けては通れない歴史
しかも激しい語り、表現
何か重いものが
押し寄せてくるような
そんな小説にただただ
文字を追うことしかできなかった