・《そこにあるというだけで意味のある場所》(p.213)
・就職先が決まらないまま大学卒業に至ったマヒコは古くからの銭湯「刻の湯」に住み込みで働くことになった。そこには数人の若者が暮らしていて・・・
・妙に居心地のいい刻の湯での暮らしに馴染みつつこのままでいいものかどうかマヒコは行く末をつねに探し
...続きを読むている。
・優柔不断なマヒコそのままにすべてが中途半端なまま時間は進んでゆく。実人生はそんなもんかもしれないが。なかなか落としどころの難しいお話っぽくてどういう終わりを迎えるのだろう?と思っていた。
・誰かに何らかのラベルを貼って分類できたと安心する感覚に与したくないというのがこの話の要素のひとつではあるかな?
▼刻の湯についての簡単なメモ
【アキラ】どこかおかしなヤツ。他者やおそらく自分自身をもステロタイプな価値の決め方をしない青年。ゆえに正直に思ったことを言ってしまう。「動じる」という機能はついていない。刻の湯の実質的な経営者。《僕、自分がいても、いなくても、どっちでもいい場所の方が、落ち着くんだ》。この台詞には共感。暗い影を落とすなんらかの過去があるらしい。
【ゴスピ】ふだん無口だが言いたいことは言う。部屋を出ると靴を履くのは部屋以外は外だと思っているから。基本、スナック菓子しか食べない。フリーのエンジニア。
【住人会議】二週間に一度ありいろいろ不満とか話し合う。
【タタミ】刻の湯のきれいな看板猫。
【蝶子】一方的コミュニケーションを取る女。いつもなにかと闘っている風情。手に入れたものはゴミのように捨て去る。手に入れる努力はとてもする。男も一度寝たらゴミ。だのに職業は「愛人」だとか。
【トキさん】「何事も念入りに、ただし、軽やかに」という言葉を遺した、刻の湯の元店主。戸塚さんの亡妻。
【刻の湯】薪で湯を沸かす銭湯。職住一体型で家賃ゼロ円の寮があり若者たちが集まる。
【戸塚さん】刻の湯のオーナー。包容力があり褒めて育てるタイプ。《多くの人間たちはね、あくせく働いているように見えて、案外、何もしていません。偉人だけが、この国を作ったわけではありません。その、多くの人たちによる、何もしない時間、待っているだけの途方もない量の時間がね、きっとこの国の内側にある、数字や言葉には表れない多くの豊かなものを作ってきたように思いますよ。》
【トミタさん】人気漫画家。「カブキホームレス魁!」。《暗闇には光を当ててはいけません。光の届かない暗闇を抱えておくことも、人間にとっては必要なことです》。
【マサさん】コワモテで見事な刺青。元落語家志望だったらしい。
【まっつん】ベンチャー企業に勤めている。
【マヒコ】語り手。落ち込んでいた青年。湊マヒコ。皆はマコと呼ぶ。
【龍くん】唯一恋人がいる。彼の作るオムライスは旨い。片足が義足。「ロハン」という美容室でアシスタントをしている。《みんな、よゆうが、せんぜん、ないんだ(中略)だからさ、ここでくらいは余裕持ちたいじゃん?(中略)せっかく、“こんな場所”に住めてるんだからさ》
【リョータ】戸塚さんの孫。母親(戸塚さんの娘)に置いてけぼり。心を閉ざしなかなか打ち解けようとしない。