アントニオ・G・イトゥルベのレビュー一覧

  • アウシュヴィッツの図書係

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    これが実話ベースというのが怖すぎる…ナチスの作品に触れるたび、人間ってこんなに簡単に残酷に人を殺せるんだって恐ろしくなる。著者がジャーナリストなだけに、毒ガス室での殺戮の様子や、バラックでの病に苦しんだ様子が刻々と記録されていて、とても心が痛んだ。でも、希望だったのは、たった8冊でも、理解ができない言語で書いてあっても、本は人々に希望や現実からの逃避を与えられるということ。読書にはそんな大いなる可能性があるということ。そして、ディタの志と使命感、決して諦めぬ心、そして知恵や登場するキャラクターの優しさにとても心が救われた。ナチス側の人物も実在する人物たちで、その後どうなったか、が語られるのも良い。克明な記録として、後世に受け継ぎたい逸品。

    p.35 それは君が勇敢だからだ。勇気がある人間とそれを知らない人間は違う。恐れを知らない人間は軽率だ。結果を考えず危険に飛び込む。危険を自覚しない人間は周りを危ない目に合わせる可能性がある。そういう人間は僕のチームにはいらない。僕が必要とするのは、震えても1歩も引かない人間だ。何を危険にさらしているか自覚しながら、それでも前に進む人間だ。

    p.44 アウシュビッツは罪のない人を殺すだけでなく、良心を殺す場所でもあった。

    p.54 子供ですって?とんでもないわ。子供時代がないのに、何が子供よ。

    p.57 ナチスが音もなく更新してきた1939年3月、全てが始まった。突然全てが崩壊したわけではない。しかし、ディタの周りの世界は崩れていった。最初は少しずつ、次第に加速しながら。配給手帳が配られ、いろんなことが禁止された。カフェので入り、他の市民と同じ時間帯に買い物に行くこと、ラジオの所有、映画館や劇場に行くこと、りんごの購入…。その後、ユダヤ人の子供は学校から追放され、公園で遊ぶことも禁止された。それは子供時代を取り上げるに等しかった。

    p.59 ささやかな思い出だが、ファーストキスは決して忘れない。あの後後の嬉しさを思い出すとウキウキとした気持ちになり、戦争と言う砂漠の中でも、喜びを感じることができた。大人は決して手に入らない幸せを求めて必死にあがくが、子供はその手の中に幸せを見出せる。

    p.87 子供たちもその方がよく聞いてくれるのですよ。頭のおかしいの年寄りの言うことなどだれも耳を貸さないけど、それが本に書いてある事なら…別です。本の中には、それを書いた人の知恵が詰まっています。本を消して記憶を失わない。

    p.104 ディタは12回目の誕生日のために自分で考えていることがあった。夜、母さんが彼女の部屋におやすみを言いに来た時、リサはもう一つの音をだおねだりした。お金はかからないからと断り、12歳になったのだから大人の本を何か読ませてほしいと頼んだのだ。

    p.171 エディタ…。まるで彼が悪いことをしたみたいに言うのね。ただ女ではなく男に惹かれるだけのことでしょう。それが、そんなに悪いことかしら?

    学校では病気だって教えられました。

    本当の病気は、人を許すこともできない、心の狭い考え方だわ。

    p.236 アウシュビッツの夜がふける。暗闇の中、列車が到着し続け、途方に暮れて木の葉のように震える罪のない人々を置き去りにしていく。そして煙突の赤みがかった強い光が、休むことなく炉を燃やし続けていることを物語る。家族収容所に入れられている者たちはシラミだらけのわらぶとんに横になり、恐怖と闘いながら眠ろうとする。一晩一晩を生き抜くことが小さな勝利だ。

    p.283 ディタが本を閉じると、子供たちは立ち上がり、またバラックの中を騒々しく走り回り始めた。消えていた命の灯がまた灯った。ディタは何度も糸で縫い直されたその古い本を撫でた。そしてフレディー・ヒルシュは自分のことを誇りに思ってくれるだろうと幸せな気持ちになった。「いつも前に進み続けること、あきらめないこと」と言うヒルシュとの約束を果たしたのだ。

    p.312 ナチスは私たちから何から何まで取り上げたけど、希望を奪うことはできない。それは私たちのものよ。連合国軍の爆撃の音も前より大きくなってるわ。戦争は永遠に続くわけじゃない。平和が来たときの準備もしなくちゃ。子供たちはしっかり勉強しておかねばね。だって、廃墟になった国や世界を立て直すのはあなたたち若者なんだから。

    p.335 周囲には武装したナチスもいなければサイレンの音も命令の声も聞こえない机の上で、パンのかけらをかじるこの自由な瞬間は、誰にも奪えない。

    p.368 並べられた本が小さな列になった。奥ゆかしい古参兵のパレードだ。この何ヶ月か、何百人もの子供たちが世界中を旅行し、歴史に触れ、数学を勉強するのを助けてくれた本たち。フィクションの世界に誘い込み、子供たちの人生を何倍にも広げてくれた。本の数冊の古ぼけた本にしては上出来だ。

    p.370 強くて前に進もうとすると、勇気がいるでしょう。でも強くない人は、何をやるにも平気なんだから、偉くも何ともないわ。

    p.392 数時間前まで生きていた人間が、まるでゴミのように穴に投げ入れられる。作業員のハンカチは腐臭に耐えるためではなく、顔を隠すためではないかとディタは思った。人間をゴミとして処理するのを恥じているのだ。

    p.412 ディタは振り返って笑顔を向けるが、立ち止まる事は無い。英語なのも、自分には読めないものなのもわかっている。でも構わない。母さんが眠っている間、空きベッドに座って本の匂いをかぎ、ページをパラパラめくって上の音を楽しむのだ。背表紙をもう一度撫でて、表紙ののり付けの厚みを感じる。そこに書いてある作者の英語の名前もエキゾチックだ。再び本を手に取ると、人生がまた始まるような気がする。誰かが蹴散らしたジグソーパズルのピースが少しずつ元に戻る。

    p.418 オータは微笑む。生き生きとした、ちょっといたずらっぽい目が、君が生きていて嬉しい、また会えて嬉しいよ、とディタに語りかけている。ディタをまた、なぜかしら微笑んだ。その微笑みは人と人を結ぶと、それが強い絆になる。彼の朗らかさが出たの心も明るくする。

    作中で出てきた本たち
    ・『兵士シュヴェイクの冒険』
    ・『幾何学の基礎』
    ・『世界史概観』
    ・『ロシア語文法』
    ・『精神分析入門』
    ・『モンテ・クリスト伯』
    ・『ニルスのふしぎな旅』
    ・『ユダヤ人の歴史』
    ・野村路子『テレジン収容所の小さな画家たち詩人たち』
    ・『ポーランドのボクサー』
    ・オータ・D・クラウス『塗られた壁』
    ・ルディ・ローゼン『私は許せない』

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    2022年06月29日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    大人も子どもも、本が、物語が、世界への扉が、未知への好奇心が、心の騒めきを鎮める重石になり、光を感じる光源となり、自分を外から見つめる道具になりうる。

    本の持つ可能性を強く感じる。
    過酷という言葉では言い表せないであろう時と空間の中で、志を折らずに闘った人達。

    同じ民族でも様々な考えの人々がいて、今の自分、自分のルーツに不利益な事実について、それは事実ではないと言い募る歴史の不確かさ、脆弱性。

    歴史となる中で、どういう声を聴くべきかにも強く気付かせてくれる。

    今のウクライナ侵攻も心を掠めながら読み進める。

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    2022年04月06日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    ネタバレ

    アウシュヴィッツで図書係だった少女の話を基にした小説。

    当時の過酷な生活は、想像しても仕切れないものだなと改めて思う。理不尽な死がこんなに近いことなんてない。

    『ごく当たり前の生活が、滑り台を滑るように地に落ちていった。』

    『英雄的行為の大きさを評価し、名誉や勲章を与えるのは簡単だ。けれど、あきらめるという勇気は誰がわかってくれるのだろうか。』

    戦争のもつ力の大きさと、それに抗えない無力感を感じることが出来る上の表現と、目に見えないものの繊細さと美しさを再考させてくれる下の文章に心奪われた。

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    2021年10月11日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    「どんぐり文庫」で借りる。

    辛すぎる歴史だけど、
    人間の崇高さ、人類が本や言葉を紡いできた意味、希望の光、そんなこんなが心の奥に深く静かに染み込んでくる、そんな本。

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    2021年03月27日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    アウシュビッツという過酷で不条理な世界を懸命に生きた少女の姿に感銘を受けると共に、彼女がその中で大人になるしかなかったことに悲しみとやるせなさを感じた。しかもこれが実話に基づいているとは…

    海外著書の内容や聞き馴染みのない名前や知名が沢山出てくるので、読みやすい本ではなかったが、心に重く残る本だった。

    本や文化は生きるために必須なものではないが、人が希望を失わないために大切な要素。

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    2025年11月02日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    歴史的背景の入り口としては良い作品だと思うけど、惨禍を伝える点を優先しすぎた感は否めない
    実在の人物をモチーフにしているのだから、主人公自身の痛みや内面をもっと掘り下げてあったらなー

    「人類の歴史において、ー独裁者、暴君、抑圧者たちには、ーみな共通点がある。誰もが本を徹底して迫害するのだ。本はとても危険だ。ものを考えることを促すからだ。」

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    2025年10月30日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    3.8 状況が厳しすぎて、読んでいてしんどくなってなかなか進まなかった。絶望の中のわずかな希望の話。どれだけ過酷な環境でも人の心まで従わせることはできない。命を選別する権利は誰にもない。実行した責任を体制のせいにしてはならない。

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    2025年04月04日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    ネタバレ

    なんとなくで知っていると思っていた
    戦争の悲劇

    この本を読んだからと言って
    分かったことはそれほど多くはないのだろうけれど
    思わず眉間に皺が寄ってしまう
    そんな光景を想像することはできた

    人は誰しも失敗から学んで
    次はこうしようと無意識に生きている

    歴史を知るということも
    同じことなんだろう
    ただ無関心で生きていくこともできるけど
    そうはなりたくないと思う

    ディタが80歳まで生きられたこと
    一言では言い表せないけれど
    心からよかったと思う

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    2025年01月28日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    夜と霧から入ってアウシュビッツについての本は2冊目です。

    劣悪な環境の中、ユーモアと想像力を忘れない女の子が本守り本に守られながら生き抜く話。

    あとがきの文章がまたいいです。引用いたします。

    『人間が生き残るために必要なのは、文化ではなくパンと水だ。しかし、ただそれだけでは、人間性は失われる。もしも美しいものを見ても感動しないなら、もしも目を閉じて想像力を働かせないなら、もしも疑問や好奇心を持たず、自分がいかに無知であるかに思いが及ばないなら、男にしろ女にしろ、それは人間ではなく、単なる動物にすぎない。』

    ちゃんと人間として生きような。

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    2021年06月12日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    文学は、真夜中、荒野の真っただ中で擦るマッチと同じだ。マッチ一本ではとうてい明るくならないが、一本のマッチは、周りにどれだけの闇があるのかを私たちに気づかせてくれる。

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    2021年04月12日
  • アウシュヴィッツの図書係

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    史実を基に肉付けしている小説。
    後半に進むにつれ、当時の収容所の劣悪な描写がひたすら続き、読んでいて辛かったです。

    開放された瞬間の収容者の
    「どうしてもっと早く来てくれなかったの?」
    という一言が印象的で、涙が出ました。
    このあたり、小説としては主人公自身のセリフや感情をもっと読みたかったところですが…。

    あとがきに登場人物のその後が書かれていて、とても興味深く読めました。

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    2021年03月02日