小林武彦のレビュー一覧
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『新書大賞2022』第2位。話題になった生物にかんする新書というと、『生物と無生物のあいだ』が想起されるが、本作は同作よりも個人的には読みやすかった。本作は文字どおり「生物はなぜ死ぬのか」について解説しており、結論からいうと、生物は死ぬからこそ多様性が生じて進化しやすくなるため、生物にとってはより生き延びるために死ぬ必要があるということである。なかなか興味深くはあったが、しかし、内容としてはそれほど新鮮味がある話ではない。もし多様性がなかったとしたら、たとえば病気が蔓衍したさいにたちまち絶滅してしまうということは容易にわかるであろう。本作は難易度としては高校の教科書と同等ないしはやや発展させた程度であろうか。それゆえ、だいぶ読みやすく、それが本作の話題性にも繫がっているのであろう。
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Posted by ブクログ
タイトル: 「死」と「老い」は生物が数十億年かけて磨き上げた、最も精緻な生存戦略
AIとの議論も含み、この本に記載がないこともふくみます。
小林武彦氏の『寿命はなぜ決まっているのか』を読み、細胞老化から個体の死に至る生命のメカニズムをあらためて思考・整理するきっかけになった。
本書の核心にも通じるが、私たちが普段「衰え」や「不都合なバグ」と捉えがちな老化や死は、生物学の視点で見ると驚くほど合理的で、美しく設計された適応戦略である。
1. テロメアとDNA損傷応答――がん化を防ぐ防波堤
テロメアの短縮は単なる「分裂の回数券切れ」ではなく、細胞にとっては深刻な「DNA損傷(切断)」の擬態シグナルである。生物にとって最悪のシナリオは「傷ついた設計図のまま分裂してがん化すること」。細胞は二度と分裂できないよう不可逆的なブレーキ(細胞老化スイッチ)をかけることで、若年期の命をがんから力ずくで守っている。
2. なぜすべてをアポトーシス(自死)にしないのか
重度の損傷を受けた細胞をすべて自死させてしまうと、皮膚や血管、内臓に穴が空き、組織の物理的崩壊や感染症を招く。老化した細胞はその場に「土嚢」のように踏みとどまり、足場を維持しつつ、SASP(老化関連分泌現象)によって傷口を塞ぐ現場監督としても機能する。また、幹細胞プールの無駄な乱費を防ぐ緩衝材でもある。
3. 幹細胞の枯渇と「使い捨て体細胞(ディスポーザブル・ソマ)」
幹細胞の老化はテロメアだけでなく、エピゲノムの乱れや周囲の環境(ニッチ)の劣化によって進む。幹細胞の分裂が止まれば日々の補完が追いつかず、組織は衰えていく。しかし、限られたエネルギーを体細胞の100%完全なメンテナンス(不死)に注ぎ込むより、「繁殖期を全うできる程度にそこそこ維持し、余力を次世代(生殖細胞)へ回す」ほうが遺伝子の生存には圧倒的に有利だ。
4. 「死」という新陳代謝がもたらす多様性
単細胞生物にすら非対称分裂による老廃物の押し付けと寿命が存在するように、「死」は生命の根源的な発明である。親世代が老いて退場し、資源と生息地を明け渡すことで、有性生殖によってシャッフルされた新たな多様性を持つ子世代へとバトンが渡る。これがあるからこそ、劇的な地球環境の変化や病原体の進化に絶滅せず適応し続けることができた。
個体の主観から見れば「死の克服」は悲願かもしれないが、進化の視点に立てば、個体の死こそが生命システム全体を存続させている。
「死があるからこそ、現在存在する生命はよくできている」という生命の深淵なトレードオフを、分子生物学的な手触りとともに深く納得させてくれる一冊。 -
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ネタバレ生物はなぜ死ぬのか
この手の本の中では珍しくベストセラーのようです。
生物学者の視点でどうして死があるのか?を簡単に説明してくれます。
進化の過程で生き残った生物にほとんどと言っていいほど死が訪れる。それは進化の淘汰の過程で死がその生き物の生存に資するから。と言うのが答え。
進化のお約束として、変化と選択があり、変化のためには資源の再利用が必要で、そのために死がある。
細胞が老化して代謝が弱まり遺伝子のコピーミスが多発する前に細胞を自壊させ次の資源にする。
一時期テロメアの長さが短くなることにより細胞に死が訪れると読んだことがありますが、そんな簡単なものではなくもっと複雑なプロセルでアポトーシスが開始されるようです。
不老不死の薬は簡単ではないようです・・・
人間の個体の遺伝的な死期は55歳程度のようですが、限界は115歳のあたりにあるようです。
将来それを伸ばす薬ができたとして、それがその個体の幸せに結びつくのかどうかは甚だ疑問です。
生物界の掟の通り、死をもって大いなる自然の循環に還るのが、生き物としての当たり前の姿かと竹蔵は納得しました。
竹蔵 -
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生物が生まれたのは、腕時計の部品を25mプールにばらまいて、ぐるぐるかき混ぜてたら腕時計が出来上がってちゃんと動くようになったくらいの確率らしい、という話から興味を持ち、読み始めた。難しい話が、ユーモア交えて分かりやすく書かれている。
去年、NHK番組で知ったことと同じだなと思ったら、その番組で説明していた方が著者だった。どうりで!
私には高度過ぎる話は斜め読みしてしまったけど、続編?『なぜヒトだけが老いるのか』を読んだら、そこの理解も少し進んだ…ような気になっている。
私たち人間はこの先ずっと存在し続けるように考えているけど、実はそれはかなり難しいのかも。たまたまが重なって命が出来て、今、地球にたくさんの生物がいることのすごさ。戦争に進む愚かさ。為政者に読んでほしい。 -
Posted by ブクログ
生物学視点の死生観、新鮮。しかも読みやすくておもしろい!
地球が美しいのは、生物の多様性に満ちているから。そして多様性は、変化と選択、突き詰めると「死」が創り出す。
生まれてくるのは偶然だけど、死んでいくことは必然だと。
大好きな絵本の『くりざぶろう』を思い出した。
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いとおしい くりたちよ
いきることと しぬことは
いつも ちかくにあるのですね
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私たちは常に誰か、何か、他者のおかげで生きている。「死」を感じる瞬間にそれに気づいたりするけど、生を受けた瞬間からずっとそうで。
そして、大きな時流、連鎖の中で、種のバトンをつなぐだけの小さな存在。抗えない。生まれたことにも深い意味はないらしい。
でも、一生に、それぞれ物語が、ちゃんとある。意味を持って生まれてないけど、それは無意味ということではない。 -
Posted by ブクログ
理論物理学、微生物学、幹細胞発生学、宇宙物理化学、生命流体力学、地質学・岩石学、火山学、古脊椎動物学、代数幾何学、ニュートリノ天文学など、様々な分野の19名の理系研究者が「偏愛論文」について語るアンソロジー。
自分は文系で、理系の学問についてはあまり縁がない中、いろんな研究分野のユニークな論文のエッセンスが知れてとても興味深かった。また、研究というものの面白さを改めて感じた。
中でも、川上和人「そういえば、最近ケンケンしてないな」、仲野徹「衝撃と痛恨の秘話 幹細胞の可塑性とは何だったのか」、西本昌司「スカスカ・グサグサの岩石」、小林快次「羽を生やした恐竜」、小林武彦「私の愛する論文たち 老化は突然やってくる!?」が面白く、印象に残った。
ぜひ文系の学問についても、同じような企画をしてほしいなと思った。 -
Posted by ブクログ
著者は、生まれてくるのは「偶然」だが、死ぬのは「必然」であるという。
いま生き残っている生物が、いま生き残っている理由は多様性確保による変化や環境への適用であるから、その多様性確保のために死ぬことが必然であるという。
本書では生物の誕生から、多様な生物の死に方や生理的な死ぬ仕組みが幅広く紹介されて、その結論として、非常に明快だと思うし納得できる。
一方で、感じたこととして、一歩引いてみれば見れば、これも一つのストーリー理解であると思った。
具体的には、死の理由が問題になるのは、著者が本書で述べた通り、我々人間が自意識や自我があるためであると思われる。本書でもアリやハチの例が示されているが、我々の存在を物理世界の一部と考えれば、個の死という問題自体が霧散する。
歴史家によれば個人という概念は、近代の発明であるという説があるという。
また、脳科学の一部研究者によれば自我や自意識の存在は外部刺激への反射への脳によるストーリー理解または錯覚のようなものだという。
そして、初期仏教は、世に存在するのは個ではなく関係性(縁や空)だけだという。
今後、人間外の知能であるAIの登場で、個人の自我のとらえ方が世界との境界が変わっていく、個人の優劣が意味をうしない、そのうえで生や死も意味が捉えなおされていく、そんな未来を見てみたいと思った。 -
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勉強が足らず理解出来ないところもあったけれども、とても面白く、また魅力的な着眼点に満ちたアンソロジーだと思う。
博士たちが愛してやまない論文を紹介している。
実にシンプルである。
しかし、博士たちが愛しているだけあって、その多様さは目を見張るものがある。
博士たちは論文を愛している。博士いわく……
その論文は美しい。
その論文は執筆した科学者の野心と信念が詰まっている。
その論文はこの分野においてすばらしく重要だった。
その論文は卓越した面白い他にない着眼点でもって作成された。
その論文は結果的には誤謬であったが、この論文があったからこそ反証的に研究が進み発展した。
その論文はいまは亡き仲間が遺したもので今も活きている。
その論文は自分の根幹を成すものだ。
その論文は科学者である自分を産み出し、おそらくは未来にも自分のような科学者を産み出す。
その論文は自分を含めた多くの科学者たちを結びつけている。
その論文は大きな転換期に発表され、特異点として今後も残る。
博士たちが愛する論文は、門外漢である私には容易に理解出来るものではない。しかし、素晴らしい厚みと重みを持って人類の叡智を支えているのだと思った。 -
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今までありそうで(あったかもしれないが)見つけられていなかったテーマ。いろんな分野の先頭を走る研究者が各々愛する論文を語るという、極めて興味深く面白かった本。各々の研究テーマが違うのはもちろん、各々の研究者の感性や語り口がそれぞれ全く違っていたのも面白かった。一般向けに少し噛み砕いてくれている人もいれば、専門用語もりもりで愛が溢れている人もいた。どちらも素晴らしいと思う。いわゆるオタク文化にも通ずるところがあると感じた。専門家から見た「私見を含んだ」サイエンス的エッセイは非常に面白かった。
大学時代を振り返ると、論文を読むのは嫌いではなかったし、面白かったがやはりどこかタスクの一つになっていて心の底から楽しんで読めていなかったと思った。川上先生の章の基礎研究のあり方は非常に共感できた。面白いを追求し、誰かの心を踊らせるようなものを世に出せている時点で価値はあると思う。森林分野以外にも、他分野のインパクトのある論文を読んでみたい。ぜひ続編を出してほしい。さらに言えば年に一回でもいいから定期刊行してほしい。 -
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生物学、遺伝子などを研究する著者が、『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』に次ぐ、生物としての私たちの存在の意味を考えるシリーズの三作目と位置付ける一冊。
本書で、著者は、「幸せ」=「死からの距離が保てている状態」と定義し、生物にとっての幸せとはどういう状態のことで、ヒトは進化の中で、その幸せになれなくなった背景やその処方せん、未来への警鐘を鳴らします。
「幸せ」になる方法は、すでに遺伝子に刻まれているとし、
原動力は、生存本能と生殖本能に尽きる。生存本能の一つの形として、ヒトは集団の中で生き残るために、空気を読み、自分の位置を認識し、集団から追い出されないように、他の人より少しだけいい評価になるように努力するように進化してきました。その結果として、社会全体は発展してきたものの、「遺伝子と環境の不適合」により、いろんな不都合が生じています。これが幸福感を得られにくい理由だとしています。さらに、ヒトの未来を希望あるものにするために、「自然回帰」と「テクノロジーの活用」を挙げています。
本書の展開の中で、興味深い話も随所に込められています。1つは、生命科学の革命的な発見は約50年周期で現れるとして、メンデルの遺伝の法則の発見(1865年)→遺伝情報の実態が染色体やDNAであること(1900年代)→ワトソン・クリックによりDNA二重らせん構造の解明(1935年)→ヒトのDNAの配列(遺伝情報、ゲノム)の解読(2004年)を紹介し、近々、「ニューラルネットワーク(神経回路)」の理論による脳の情報処理に関わる機能の解明がされるのでは、という話。もう1つは、生物学的視点からのリーダー像の話でした。他にも死からの距離近くなる(高齢化率が低い)都市部になぜ人が集まるのか、という話もなかなか興味深い内容です。
▼生物学的な視点から考えるリーダーの条件
・集団としての生き残りの戦略に長けていること。メンバーの「幸せ」を増やせるヒトであることが最低限必要です。
・シニアであること。シニアとは経験や知識が豊かで、教育熱心、利他的、公共的な精神の持ち主です。必ずしも年配者である必要はありませんが、年配者が多いと思います。
・評価が公正にできること。集団の構成員が納得する評価を下せることです。努力の方向を間違わないために評価軸は重要です。
・その評価に応じた公正な分配ができること。
さて、前々作、前作に引き続き、やさしい口調で難しくなりがちな話を分かりやすく説明されています。急にドラえもん風な寸劇が入ったのは面白い限りです。
また、著者は、私が住んでいる市の研究所に在籍されていたことがあることを今回初めて知りました。大変住みやすいところと評価していただいたのも、本書の内容とは違うところでうれしく感じます。
本書は、過去2作の内容を継承しつつ、現在テクノロジーとどう付き合っていくべきか、そして発生が危惧される大規模地震が起きた場合、どのようなことが起きるのかを想像し、今必要な考えや行動を指し示しています。生物や進化に興味がないかたにも、ぜひ読んでもらいたい内容です。
<目次>
第1章 進化から見た生きものの幸せ
第2章 ヒトの幸せとは一体何か?
第3章 「幸せ」は遺伝子に刻まれている
第4章 なぜヒトは「幸せ」になれないのか?
第5章 テクノロジーはヒトを「幸せ」にするのか?
第6章 「幸せ」になるためにー生物学的幸福論 -
Posted by ブクログ
生まれて、死ぬ。全ての生命はそれを繰り返して、今の地球環境で生存していることになります。生まれて死ぬを繰り返す中で進化してきているのです。
最初に生まれた生命が不老不死だったとしたら、生物学的な進化を遂げるわけでも無く、その形のまま地球環境が大きく変化した時に適応できずに生命は終わってしまうことでしょう。遺伝子に老化や死は組み込まれているのだそうです。
本書には難しい話も出てきますが、生物に関する興味深い話を学ぶことができます。生物として考えると、生と死を理解できるのですが、身近な人やペットが亡くなると、とてつもない喪失感を味わい、なぜ死ななければいけないのか?と考えてしまいます。本書は、我が家の猫が亡くなったことがきっかけで読み始めました。悲しみが薄れるわけではないのですが、生き物は必ず死ぬということを生物学という視点で学ぶことができました。 -
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ネタバレ現代社会でヒトが「幸せ」を感じくくなっている。その原因を著者は「遺伝子と環境の不適合」と説明する。
700万年にわたる狩猟と採集の時代の間に、ヒトの心と体はコミュニティの中で他者と助け合って生きるよう最適化されてきた。コミュニティにおける他者との関わりの中で「ヒト」は「人」になっていった。協力、共感、利他性、正義、ベターを目指す性質などは、進化の過程で遺伝子に刷り込まれたヒトの本能。
「遺伝子と環境の不適合」は「弥生格差革命」に始まる。農耕と定住化は富の偏りや身分格差をもたらし、コミュニティは集団から家族単位へと変化した。テクノロジーが発展し、寿命は延び、物質的な生活は豊かになったが、生活様式やコミュニティのあり方の変化は、ヒトが長い期間を経て獲得した遺伝的な性質とのギャップをさらに拡大し続けている。個人重視での現代社会でヒトは孤立と孤独を強め、「幸せ」を感じにくくなっている。
自己完結の気楽さ、テクノロジーの便利さ、快楽の消費を知ってしまった人類は、もはや以前のような暮らしには戻れない。ヒトが幸せになる方法とは?
「幸せ」=「死からの距離が保てている状態」という一貫した定義のもと、ときに自然界の様々な生き物たちと比較しながら「ヒトにとっての幸せ」について論じられている。
生物学者による幸福への指南書。前々作「生物はなぜ死ぬのか」、前作「なぜヒトだけが老いるのか」と合わせて読むとさらに深く味わえます。