トーマス・ラープのレビュー一覧
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トーマスラープ 「静寂」
副題「ある殺人者の記録」とあるが、殺人者の告白や事件解決の物語ではない。殺人者を否定は していないことに 違和感はあるが、宗教的倫理感と切り離して 死を取り上げている。
殺人犯 カールが「死とは何なのか」を 確信していく心理過程を経て、生への希望を描いている。タイトル「静寂」の意味は、母胎であり、愛の象徴であり、親から子へ、生を贈る場所 と捉えた。
最初読んだ時、誤訳かと勘違いしたが、エピグラフと序文の意味は 最後の章でスッキリする。2部 の「死とは何なのか」の内省は かなり面白かった。
カールにとっての静寂の場所
*暗闇や水の中〜何の不自由もない我が家
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Posted by ブクログ
ネタバレ異能を持って生まれた人間の生涯を描く傑作が、また一つ誕生した。例えば料理の才で人を操るハリー・クレッシングの『料理人』。あるいは世にも稀なる嗅覚を活かした調香の術を使って、ある野望を果たすパトリック・ジュースキントの『香水 ある人殺しの物語』。いずれも寓話的な作品世界の中で、主人公の超人的な才能を描くことに筆が費やされ、作中の登場人物ばかりか読者までもがその魅力に翻弄される頃には、取り返しのつかない事態が起きているという話である。
蝶の羽ばたきが聞こえ、雨音を銃弾の雨あられのように感じ、母親の声がナイフのように鋭く耳に突き刺さるほど異様に研ぎ澄まされた聴覚を持って生まれた人物が主人公の本書も -
Posted by ブクログ
連続殺人者の物語。
惹句から、いわゆる犯罪譚めいたものを予想していたら、これがまったく違っていた。
濃密な人間ドラマだった。
カールの行いは決して赦されるものではない(大量かつ残酷)。それなのに彼の行いにはどこまでも静けさと厳かさが付きまとう。
前半の彷徨えるカールの行為も、後半の聖職者となった彼が手を下した行為の数々も、すべて一貫して同じ意味を持って行われていたのがなんとも複雑。
救いとは。生きるとは。幸福とは。
カールなりの愛の表現だったかと。
少女の存在が秀逸で、どこまでもカールを支える存在であり続けた描写が神々しい。まさに天使だった。
「人は変わる」
陳腐な慰めを奇妙に、静かに納 -
Posted by ブクログ
どんなに小さな音でも聞こえてしまう聴覚を持って生まれたカール。その聴覚ゆえに少しも泣き止むことなく、母親を苦しめ続けた。その原因が分かった両親は、地下のサウナ室を改造しカールの部屋とし、音の聞こえない世界を作り上げた。そこで大きくなっていくカール。しかし、年齢とともに様々な不都合が生じ、カールには休まるところがない。そして見つけた静寂の場。静寂を求めてカールのとった行動は…。
20世紀末から今世紀初めにかけてのヨーロッパが舞台。とにかく壮絶な描写が多く、ちょっとしんどくなる。それでも、カールの行く末が知りたくて読み続けてしまう。
読後は、悲しく、もう一度最初に戻ってしまう。