「源氏物語」の流れや前提知識を学べる入門書のような本です。内容もそれほど難解でなく、比較的読みやすいと思います。
(※以下、「源氏物語」のネタバレと言えなくもない箇所がありますのでご注意ください)
数年前に「源氏物語」を読んだことがありますが、当時は、光源氏をとりまく恋物語である、というくら
...続きを読むいしか理解できませんでした。
本書を読んで、「源氏物語」がかなり重厚かつ丁寧に練られたストーリーであることがわかりましたが、同時に、「源氏物語」を満遍なく楽しむにはそれ相応の前提知識が必要であるとも感じました。
光源氏と空蝉は逢坂の関で再会しますが、この場所が人々の再会と別れを連想させる場所であることを知っているか否かで二人の今後をどう予測するか変わってくるでしょう。
船楽で春の町と秋の町を回った中宮の女房らが春の町を称賛するシーンも、春秋優劣論が頭に入っていないと、夏でも冬でもなく、秋の町を春の町と競わせた紫式部の意図をスルーしてしまいそうです。
本書によれば、ここは秋の町よりも春の町の方が優れているとすることによって、紫の上の正統性(正ヒロイン性?)を暗にほのめかすシーンだったようで、春秋優劣論を知っている人がこの場面を読んだら、思わず唸ってしまうんじゃないかと思います。
家の対立で一旦は仲を引き裂かれたが最終的に結婚した夕霧と雲居雁のようなほっこり話があったり、亡き想い人の身代わりを浮舟に求める薫のような、よくも悪くも人間味のある登場人物もいたりと、これでもかというくらいに色々な要素がつまった作品です。ほか、頭中将との派遣争いという政治小説の色もあります。
「源氏物語」の魅力全てを咀嚼して満喫するには相当時間がかかりそうですが、本書を読んで、少なくとも上澄みの味くらいは、理解できた気がします。